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教職の魅力、教育の未来                 大沼 博文 教育長 特別講演

福島大学 特別講演

 5月9日(火)16:20~17:50 福島大学にて大沼教育長による特別講演が開催された。講演内容の概略をご紹介する。

第一部 講演

教育長略歴

 25年間高校教諭として働き、管理主事、教頭、校長を経て再び教育庁で勤務するなどの合計38年間の教員生活を送った後、一昨年度から現職に就任した教育長が教諭時代の経験を振り返って今思うことや本県の教育が目標としている方向性、教職の魅力について語った。

1 教職生活を省みて思うこと

 教員採用された当時は、大学等への進学率が3割程度で、高校が最後の学びの場となる生徒が多かったため、集団での人間関係づくりを大切にしながら生徒と関わった。自分自身を大切にして自信を持ってほしい、他者を尊重し協働する姿勢や、社会への関心を持ってほしいという気持ちが強かった。
 一方で、自信のない生徒に対して手をかけすぎたのではないか、言葉で伝えるということが足りなかったのではないか、センター試験(現在の共通テスト)で点数を取ることに重点を置いた授業をしていた(正解主義に陥っていたのではないか)、地域の魅力を伝えることができていなかったのではないかなど反省もある。
 これらのことが今の仕事をする上での原動力になっている。

2 震災からの13年を振り返る

 社会教育課が2002年から実施してる「ふくしまを十七字で奏でよう 絆ふれあい事業」がある。2011年からの優秀作品を見てみると、復興の様子がわかる。
 震災後、各学校では教職員が昼夜土日を問わず、子どもたちの学びの環境を早く元に戻したい、より良くしたい、と力を尽くしてきた。その後も豪雨や地震等の自然災害、コロナ禍に見舞われたが、教職員は、これからの教育と未来を創造していくという自負を持ち、子どもたちが必要な力を身につけられるよう奮闘してきた。。
 震災から13年が経過し、復興とは何かを探究することは、教育が目指すところに通じるのではないかと感じている。

3 個人と社会のWell-beingの実現を目指して

 小・中・高の学習指導要領の前文にはつぎのようにある。


一人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。


 こうした教育を本県において推進していくため策定したのが第7次福島県総合教育計画である。今が幸せだというだけでなく、自分と社会全体の幸せを目指すwell-beingを達成できるような子どもたちを育てていかなければならない。これからの社会は流動的でどう変化するかわからないVUCAの時代。Chat-GPTをはじめとする生成AIは仕事を助ける道具であるという認識に立つべきで、どんなにAIが発達しようとも、しかし、一方で代替できない仕事がある。教職がその一つであることは間違いない。
 OECDのラーニングコンパス2030ではこれからの時代に必要な力として、次のことをあげている。


1.新たな価値を創造する力(Creating new value)
2.対立やジレンマに対処する力(Reconciling tensions and dilemmas)
3.責任ある行動をとる力(Taking responsibility)


 これらの力を育てるために「学びの変革」を進める必要がある。教師が一方的に教えて、生徒に知識を注入する、という授業から、生徒自身に学びを委ねていくことが必要になってくる。教師はファシリテーターやナビゲーターとしての役割を果たさなくてはならない。こうした学びの変革を進めていくためには、教職員の働き方も変えなくてはならない。教員の自己犠牲の上に立つシステムは持続可能ではない。福島県では令和6年度から新たに教職員働き方改革アクションプランを策定し、取組を強化しているところである。


 県教育委員会としてやらなくてはならないこともたくさんある。一方で各学校でやれることもあるのではないかという思いがある。小学校で教科担任制を行うことで先生方の空き時間ができている例もある。こうでなければならない、という考え方を変えることで学びの変革を進めていくことができる。

4 教職の魅力とは

 県教委が作成した「教員採用案内」の中で、新採用の先生方が教職の魅力について答えてくれている。例えば「子どもたちの成長を間近で見られることが魅力」「できた!分かった!に出会えた時に喜びを実感」など。

 一方で教職を選択することへの迷いや教職に対する適性への不安もあるかもしれない。ただ、教員になりたいと思いを抱いたことがあったなら、その気持ちを大切にして様々なことに挑戦してほしいと思う。

 終わりに私が教職について間もないころ、先輩から教わった言葉を2つ紹介する。

 教員として学び続けることの重要性、子どもに伴奏することの重要性を示した言葉といえる。これからも変わらず求められる理想の教員像につながるものではないだろうか。

教学相長 きょうがくあいちょうず
(中国の古書「礼記」人に教えることと師から学ぶこととは相補い合うもので、両方を経験してはじめて学業も向上する。)
啐啄同時 そったくどうじ
(禅語。 鳥の雛が卵から産まれ出ようと殻の中から卵の殻をつついて音をたてた時、それを聞きつけた親鳥がすかさず外からついばんで殻を破る手助けをすることを意味する。)

第2部 鼎談 

(ていだん・・三人が向かい合いで話をすること。その話。)

 福島大学2年生近藤さん、大学院2年生永井さんの二人が教育長と鼎談しました。

教育長  近藤さんが教員になっていいのかな、と思っているのはどういう
     ところ?
近藤さん 大きく分けて2つあって、1つめは職場に慣れることができるの
     か、2つめは結婚して子どもができたときに、自分の家庭も大切
     にしたいしクラスの子どもも大切にしたいし、となったときにで
     きるのだろうか、と思うようになりました。
教育長  職場でのコミュニケーションは入ってみるまでわからない。初任
     者だからとかではなくて、誰でも最初からうまくやれる、という
     人はいない。
     2つめについては最初からパートナーと役割分担をしたりするこ
     とが大切。教員は育児や介護に関する様々な休暇制度がしっかり
     あるので、利用してほしい。また、職場の中で育児休暇をとると
     きに、同僚が「いいよ」認めあえる環境が必要で、そうなるよう
     に子育て支援プランもある。
永井さん 実際に中学校に実習に行ってみて、中学校の先生は勤務時間を気
     にせず働いています。自分も子どもたち一人一人が多様なので、   
     個に応じた指導をすることは、自分が一人の間はできそうだと思
     いますが、家族ができたら同じようにできるか不安があります。
     県教育委員会としても人材確保をしていきたい、ということでし
     たが、取り組むに当たっての難しさはどこにあるのかな、と思い
     ます。
教育長  確かに、教員不足は全国的な課題になっている。大きな理由とし
     ては、定年を迎えて退職される先生方がここ何年か多いこと。
     そのため、来年度も小学校では採用者を300名超予定している
     が、これまで講師として支えてくれていた先生が毎年採用される   
     中で、(産育休補充等の)講師が足りなくなっている。一方で、
     福島県では全国に先駆けて、小中学校で少人数教育を進めてき
     た。
     そうすると、その分の教員数も必要となる。
永井さん 初任者の時には教え方で迷ったりしたときにどうしたらいいので
     すか?
教育長  初任者には指導教員が一人付いて、初任者にいろいろ教えてくれ
     る。小学校・中学校時代の先生でロールモデルとなるような先生
     のことも思い出してやって欲しい。

最後に学生に一言
 
教職を目指すかどうかに関わらず、次の3つを意識して学生生活を送ってほしい。
① 他者との関わりの中で自己を高めていってほしい
② 人間が成長できるのは、失敗と向き合うとき、。失敗を恐れずに、何事にもチャレンジして欲しいと思う。
③ 趣味でもなんでもいいから、一生続けられる好きなことを見つけて欲しい。

終了後、教育長との個人的な質問タイムが設けられました。

授業終了後にもかかわらず、列を作って教育長に質問に来る学生や
昔の仲間でいまは教壇に立つ先生が訪れ、言葉を交わしました。 

福島大学の学生さん、教職員の皆様、貴重な機会を設けていただき、ありがとうございました。

教育長講演ダイジェスト版(30分)


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