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生成AIパイロット校としての取組                                                                       郡山東高等学校

はじめに
 ⽣成AIについては様々な活⽤のメリットを指摘する声がある⼀⽅、懸念も指摘されている。国においては昨年7月、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を作成したところであるが、実際に学校教育の中で利用してみたという例はまだまだ少ない。そこで、昨年度文部科学省から生成AIパイロット校の指定を受け、校内で生成AIの利用について検証を行った郡山東高校に話を伺った。


記事の概要

 本校では、文部科学省の指定を受けて、令和5年11月からおよそ3ヶ月間、生成AIパイロット校として、生成AIを教育現場で活用することについて検証を行いました。短い期間でありましたが、教育現場での活用についての本校の取組について一部を紹介いたします。

1 探究の背景

 近年、ChatGPT のような自然言語処理技術AIモデルは多くの分野で重要な役割を果たしています。 しかし、教育に生かす方法についてはまだ限定的です。
 そこで本校では、「教育現場においてChatGPTは有効活用できるのか」等について知見を深めました。

2 生成AIを校務に利用することについて

文書の作成について

 生成AIは文書の作成を得意としています。Chat-GPTやGoogle Gemini(旧Google Bard)のどちらを利用しても簡単に文書を作成することができました。作成した文書は「保護者に対するお知らせの文書」や「情報モラル教育についての説明書」など多岐にわたっており、そのどの文書においても一定の満足度を得ることができました。
 本校では主にChat-GPTを利用しましたが、Geminiでも同じような結果が得られると思います。

生成AIを文書作成に利用するメリットとしては
①内容を体系的に整えることができる
 情報をバラバラに入力しても、きちんと整理整頓して必要な情報を吸い上
 げてくれる。
② 時間の短縮
 ゼロベースで素案を作成しようと思うと時間がかかるが、Chat-GPTで素案
 を作成し、教員は「できたものをブラッシュアップするのに時間を使うこ
 とができる。」などメリットがあります。また、短時間で一定レベルの文
 書ができてしまうので、作業の短縮に繋がります。

3 教科での利用

 教科での利用については、教科の特性によって、評価が分かれました。以下は、各教科の感想です。

①国語科での利用(場面により活用できる)

 国語科では、次のことをメインにChat-GPTを教科指導のために利用しました。その結果は次のとおりです
【活用場面ごとの効果と課題】〇=効果 △=課題
(1) 小論文指導(課題の提案、題材集め、添削、模範解答)
 〇多様な分野からの小論文問題が提案されました。小論文の作問には向い
  ているように感じます。
 △機械的であるため、実体験や具体例などを盛り込んだ模範解答の提示に
  は課題があるように感じました。
(2) 授業内で使用する例文の作成の補助
 △古典分野の重要語句や句法を生徒に理解させるため、いくつかの例文の
  提示を求めました。しかしながら、古典分野は誤った内容を提示してし
  まいがちでした。
(3) 記述問題等の採点
 〇生徒から提出された記述問題の解答を瞬時に採点できました(ただし短
  文に限る)。より細かい採点基準の指定により、長文の問題においても
  効果的な採点が期待されます。
 △生徒からの提出がデジタルであることが前提。採点の条件づけも細かく
  覚えさせなければならないので、負担感はむしろ大きいと感じます。
(4) 小テスト作成
 〇ワークブックの問題を把握させた上で、ランダムに出題させるのには大
  変便利です。

②数学科での利用(簡単な問題の作成に利用できる)

 数学科では模擬試験の類題作成に利用できるかを試みました。
○メリット
・簡単な問題の作成
 ChatGPTは、平方完成の練習問題のような簡単な問題の作成には有用で
 す。
・きれいな数式の作成
 ページレイアウトソフト「TeX(テフ)」のようなきれいな数式が知識が
 なくても作成できます。
・問題を解く能力
 数学の問題をほぼ完璧に解くことができます(最適解とは限らない)。

△デメリット
・複雑な問題の作成
 複雑な模試問題の作成には向いていません。
・間違いの発生
 時々間違うこともあり、その間違いに気づくには学力が必要です。
・生徒の発達段階に適さない問題の作成
 二次関数の問題ですら、生徒の発達段階には適さない問題を作成します。
・細やかな作業には手間暇が必要
 細やかな作業を生成AIにお願いするには、膨大な手間暇が必要です。

 全体的に、数学での利用はあまり向いていないように感じますが、数式の体裁を整えたい場合には生成AIを使用してもいいと思います。

③英語での利用(多くの場面での利用ができる)

 英語では生徒の英作文の添削や英検の練習問題の作成などを試みました。
○メリット
・英語学習の強化
 生成AIは英語学習に有効で、英作文や英会話の練習、採点が可能。
・明確な基準
 GPTの採点は明確でブレないため、生徒は目標に向かって努力できる。
・英検対策
 英検の模擬問題作成や、アドバイスが可能。
△デメリット
・発達段階の理解
 生成AIは生徒の発達段階を理解するのが苦手で、教師のチェックが必要。
・模擬問題作成の手間
 模擬問題を作成するのに手間がかかる。 

 生成AIは英語学習の強化、明確な基準設定、英検対策、評価基準の提示など、教育現場での活用に一定のメリットがあります。しかし、生徒の発達段階の理解や模擬問題作成の手間など、一部の課題も存在します。これらを踏まえ、教師の適切なチェックと併用することで、より効果的に活用できると考えられます。これからも、教育現場でのAI活用が進化し続けることを期待しています。

④情報での利用(参考として・・・活用が期待できる)

 これは本校での取組ではなく、関東第一高等学校様の取組をご紹介させていただきます。関東一高様では情報の授業でChat-GPTを活用していました。プログラム言語「Python(パイソン)」のプログラムを繰り返し練習できること、問題の難易度を調整できること、など、情報においては利用するメリットが大きいと思います。特に、今後、大学入学共通テストで情報が導入されることを考えると、授業の時間以外に、授業内容の定着度合いを測ることができるというのは大きなメリットであると感じました。

4 進路指導における利用

○志望理由書の添削や推薦書作成でのAIの活用

 進学指導では、生徒の志望理由書の添削や推薦書の作成にAIを活用しました。また、抽象化した生徒のプロフィールを入力することで参考ヒントが得られました。
○キャリア教育と自己理解
 高校入学時の早い段階でのキャリア教育にも役立て、生徒の「気づき」を促し自己理解にも寄与します。
△注意点
 AIに質問した内容の利用管理が不明であり、個人情報の含め方には制限が必要です。また、生成AIから得られる情報の正確さにも注意が必要です。

 一般的な文章作成には有効であると考えられるため、個人情報の取り扱いに気をつけることで、校務負担軽減につながる有力な取り組みであると感じました(今後、大学のガイドラインに注意)。

5 部活動における利用

 水泳部において、メニューの作成に利用しました。
 水泳部の週のメニューなどを作成するためには、経験者のメニューや、スイミングスクールのメニューを参考に作ることが多く、一部の生徒に負担がかかる状態でした。Chat-GPTには、今までのメニュー、高体連強化練習メニューを入力することで、1時間のメニューを作成することができ、負担を減らすことができました。
 この利用方法は、経験のない部活動の顧問になった際には有効な利用法だと感じます。

「水泳の1時間のメニューを作成してください」とプロンプト入力した回答

おわりに

 冒頭のポスターにあるように、利用する前は否定的な意見が多かったのですが、利用することでハードルが下がり、前向きな意見が多くなりました。どうすれば使っていけるようになるのかを試行錯誤しながら、活用していくことが今後の教育にも有用であると感じています。


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