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2024年7月号 リレーエッセイ                      ヒヤリハットからの次の1歩      教育委員 大村雅惠                           

 会社経営において、事故は会社の信用を大きく失墜させる最大の経費といわれている。一度失った信用を回復するには、何倍もの労力と時間がかかるためであり、よって事故防止は取り組むべき最重要課題である。
 仕事柄、ヒヤリハット事例を使った事故防止研修を実施しており、社員に多くのヒヤリハット事例の提出も求めているが、事故が発生しているにもかかわらず、事例提出が少ないのが気にかかっている。

 ハインリッヒの法則をご存じだろうか?
 1件の大きな事故・災害の裏には29件の軽微な事故・災害が、そして300件のヒヤリハット(事故には至らなかったもののヒヤリとしたハッとした事例)があるとされる労働災害の経験則である。重大事故防止のためには事故や災害の発生が予測されたヒヤリハットの段階で対処していくことが必要であるとされている。
 よって、大きな事故が起きる前にできるだけ多くのヒヤリハット事例を検証して、安全運行につなげることは必須である。しかし、ヒヤリハットは事故や災害だけにあるものではないと思っている。
 先日、ある社員から退職願が出され、その背景を検証していくと、管理職である上司との間に、日頃から不協和音が数多くあった事実を知ることとなった。業務を指示する際の口調がきつく感情的であったり、社員が病気を経て復帰する際の思いやりや配慮が十分でなかったりとその対応に、社員は徐々に上司への信頼をなくしていったという。一方、上司は部下からの信頼が薄れつつあることになんとなく気づいていたものの、それまでの関係を過信し、大丈夫と思い込んでおり、経営者に報告・相談することもなかった。結果、貴重な人材を失うことになってしまい、残念でならない。

 人事面だけでなく、管理面でのヒヤリハットもある。書類管理・現金管理・鍵やパソコン等資産管理上の様々なリスクを発見した時、改善すべき次なる一歩を考えるには、上司管理職のヒヤリハット感知能力と対処能力が問われることになる。ヒヤリハット情報は使えてこそ価値があるので、おろそかにしてはならないという意識づけも大事に思う。経営者はもちろん現場任せは許されないし、職場でのヒヤリハットに気づき、対策をとることのできる人材の育成にも力を入れていかねばならない、
 教育現場にも様々なヒヤリハット情報は存在していると思う。特に人事管理面では日常会話や業務態度から体調・疲労度を判断するなど、日頃からの注意喚起によって事故・事件に至る前に対処できることはあるはず。大きなトラブルになる前の気づきを大事に取り扱い、相談するなり指導を仰ぐなどしっかり取り組み、次なる一歩に効果的に使いたいものである。