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「ふくしまの未来をひらく読書の力 プロジェクト」を開催しました!!(その1 午前の部)

 令和5年10月14日(土)、福島県教育委員会主催、文部科学省委託事業「ふくしまの未来をひらく読書の力 プロジェクト~発達段階に応じた読書活動推進研修会~」を、矢祭町を会場に開催しました。午前はポスターセッション、午後に体験・演習、講演と盛りだくさんの内容で、会場は多くの方の「読書」に対する熱気であふれていました。今回は、午前に行われたポスターセッションについてご紹介します。


1 ポスターセッションについて

 最初はポスターセッションでした。それぞれの発達段階のスペシャリストが、読書活動や取り組みを紹介。乳幼児期、小学校期、中・高校期、そして図書館・読書ボランティアの取り組みの4つのポスターセッションでした。
・乳幼児期:平田村立ひらたこども園 桑原真希 氏
・小学校期:郡山市立富田東小学校  遠藤広美 氏
・中・高校期:県立会津西陵高等学校 阿部多喜子 氏
・図書館・読書ボランティア:矢祭もったいない図書館 緑川宏子 氏


(1)乳幼児期の取り組み

 ひらたこども園では、発達段階に応じた読書活動の中で、子どもが言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、想像力を豊かなものにしていくことを目指して、さまざまな読書活動を行っています。その一つが、絵本に囲まれた読書環境の設定。絵本に親しむだけでなく、子どもたちが主体的に読書を楽しめるように、「遊び」を取り入れた空間作りを行っています。
 もう一つは、「家読(うちどく)」の推進です。家庭で読み聞かせを行うことで、コミュニケーションの促進はもちろん、温かい時間と空間を共有して家族の絆を深めましょうというもの。毎週金曜日には、子どもたち自身が選んだ絵本を家に持ち帰り、家庭で家読を楽しみます。乳幼児期の子どもは字が読めません。だからこそ、小学校での学習の基礎となるように、周囲の大人が絵本などを読んであげることが大切なんですね。
 さらに毎週水曜日は「ノーメディアデー」とのこと。テレビやゲームなどの「メディアを消す」曜日です!!平田村では「水曜日はそういうものだ」という認識が定着してきているそうです。

読書活動によって育まれる「6つの力」に、集中力、思考力、想像力、語彙力、探求心、非認知能力があります。右上の画像は、子どもが心豊かな人間(樹木)へ成長する様子を示した「こどもの樹」。親や大人の「愛情」という土壌の下、「読書環境」である太陽と、「家読(うちどく)」という雨の刺激を受けて子どもの枝葉が大きく広がり、甘くて大きな果実を実らせる様子を示しています。


(2)小学校期の取り組み

 学校図書館における小学校時代は、いわば入門期。小学校時代に心に残る良書と出会うことは、人生をより豊かにし、生きる力を育む上でとても大切なこととなります。そこで、学校図書館で行っている取組について、大きく3つあげてくださいました。
 一つ目は、学習活動に役立つ実践活動です。授業に役立つ参考資料の整備・貸出はもちろん、国語の教科書に掲載されている物語を、関連する他の作品とともに紹介したり、大型絵本での読み聞かせやブックトークなどを行ったりしています。
 二つ目は、読書推進の読み聞かせとイベント活動です。図書委員会の児童が読み聞かせを行ったり、イベントでペープサートやパネルシアターなどを行ったりしています。また「学校給食と図書館コラボ」では、給食の献立に合わせた絵本・童話の読み聞かせとともに、食べ物の展示や音楽ともコラボ。五感を刺激するイベントとなっているそうです。
 三つ目は、読書意欲を高める図書館ディスプレイ。本の紹介はもちろん、作家の原画展など関連するさまざまなものを展示します。
 これらの活動により、知的好奇心・探求心を高め、子どもたち自ら意欲的に読書する姿につながっているそうです。

「デジタル化が進み、学校図書館も電子書籍やデジタル新聞など取り入れていますが、図書館が変化しても、子どもたちとの心の通った温かい学校図書館づくりに励んでいきたい」とありました。

※ペープサートとは、ペーパー パペット シアター(paper puppet theater)を短縮した言葉。子ども向けの紙人形劇のことで、物語に豊かな動きと表現を加えることで想像力をかき立てます。


(3)中・高校期の取り組み

 勉強に部活動に忙しい高校生。そこで高校生には、本に触れる機会を提供することが大切とのこと。では、高校生にどのようにアプローチすれば良いのでしょうか。これまでの取組や実践について4点あげてくださいました。
 一つ目は、司書などが直接生徒に働きかける「直接的アプローチ」。読み聞かせやブックトークをはじめ、司書などが選んだ本を教室に運び、シャッフルしてクラス全員に貸し出すという「シャッフル貸出」を実施。高校生にとって、自分では選ばない本と出会うきっかけにもなっているそうです。
 二つ目は、図書館以外の場所で働きかける「間接的アプローチ」。移動教室の際に目につくように本を廊下に展示したり、おすすめをブックリストにして提供。さらに、保健室に図書館の本を置く保健室ライブラリーも。
 三つ目は、本に触れる・親しむ機会の提供。ポップ作成をはじめ、ビブリオバトルや町の図書館と連携したイベントを実施。生徒同士でおすすめ本や好きな本などについて語り合う本の座談会は、効果大だそうです。
 四つ目は、利便性の向上。返却ポストの設置や新着図書のSNS発信に加えて、閉館中でもネットで蔵書検索や予約ができるようにしているそうです。
 高校生は、大人になる一歩手前の時期。基本的な読書喚起活動とともに、ICTを活用した読書支援活動を行うことで、生涯にわたる読書習慣の形成につなげていきたいとのことでした。

福島県の高校生の読書の現状(令和4年度版)はというと、「月平均の読書冊数0冊」が男子で65.3%、女子で57.9%に上るとのこと。その理由は「勉強・部活動・アルバイトなどで忙しい」、「ネットやテレビ、ゲームの方が楽しい」から。とはいえ、「今後、本を読んでみたいか?」の質問には、男子の37%が、女子の53%が「はい」と答えています。読みたい気持ちはあるんですね。


(4)図書館・読書ボランティアの取り組み

 矢祭もったいない図書館は、「令和5年度 子供の読書活動優秀実践校・図書館・団体(個人)」で、文部科学大臣表彰を受賞した図書館です。
 矢祭町では、乳幼児期の「読み聞かせ」が子どもの知的・情緒的・精神発達的に大きな役割を果たすことから、赤ちゃんがおなかの中にいるときから「読み聞かせ」を実施!!矢祭もったいない図書館は、こども園や小学校と連携し、絵本作家さんの読み聞かせをはじめ、ブックトークや子ども司書講座など、それぞれの年齢に応じた読書活動を行っています。中学校との連携では、問題解決能力を育む探究学習につながるように支援。これ以外にも、手づくり絵本コンクールの共催や地域との交流活動など、町・家庭・学校・地域一体となった読書の町づくりを推進しています。

矢祭もったいない図書館は、「図書館をつくって欲しい」という町民の声をきっかけに、全国からの寄贈図書により開館したそうです。現在は福島県内の図書館の中で4番目の蔵書数を誇ります。


2 総括について

 ポスターセッションの後、福島大学の髙野保夫名誉教授から総括がありました。福島県では、現在「第四次福島県子ども読書活動推進計画」を推進しています。この第四次計画を、第五次計画にどのように生かしつなげていくかの観点から髙野先生がお話してくださいましたので、ご紹介します。

 第五次計画に向けて大事にしたいのは、子どもたちを取り巻く読書環境の裾野を広げていきたいということです。読書活動を活性化するには、ひらたこども園のように小学校入学前の子どもたちが本に親しみ、楽しさを味わえること、それを手助けする人がいることが大事です。これまでは小学生以上を対象に、いかに読書活動を深めるかを考えてきましたが、小学校前の段階を充実させる、という視点を第五次計画につなげていきたいです。
 小学校期の取り組みでは、年間指導計画を作って、授業の展開の数歩先を行くことで、学校図書館にある本をいかに日常の授業で有効活用していくかについての発表などがありました。学校図書館の活動を生き生きと充実させるには、管理職が図書館を応援する体制も大切です。第五次計画でもそれを打ち出していく必要があります。
 さて、思春期の子どもたちの読書離れは、古くて新しい問題です。電子媒体が普及しゲームに熱中する子どもが増える中、第五次計画ではこの問題にどのようにアプローチするか、手がかりを提示する必要があります。発表では、直接的アプローチや間接的アプローチなど、子どもたちの実態に合わせた働きかけの工夫がありました。書店が減ってきているからこそ、本に触れ読書に親しめる環境を作ることが大切です。
 最後に、子ども司書制度にいち早く取り組み、手づくり絵本コンクールなども開催している矢祭もったいない図書館についてです。矢祭町は、自治体が中心になって全国に先駆けて読書の町を宣言し、図書館を核にしながら地域づくりをしています。公共図書館として、学校や地域の中でどのような役割を果たしていくのか。ネットワークを点から線へ、線から面へと展開していくことについても第五次計画の中で打ち出してほしいなと考えています。

福島大学の髙野保夫名誉教授の総括(一部抜粋)
髙野名誉教授からは「『あらしのよるに』『おまえ うまそうだな』というシリーズ本だと子どもは続きを読みたくなり、短い話から長い話へと展開していくのでは。また、子どもは本を相手に対話しながら将来の生き方を考え、考える力や判断する力を身につけていく」との話もありました。

 午前の部は、それぞれの発達段階に応じた福島県内の先進的な取り組みについての発表でした。次回は、「ふくしまの未来をひらく読書の力 プロジェクト~発達段階に応じた読書活動推進研修会~」の午後に行われた体験・演習、講演についてご紹介します。


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