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大沼博文教育長からのメッセージ ~新たに教職に就かれた方へ~

 令和5年4月4日(火)、福島県教育センターにおいて、新規採用者を対象とした「令和5年度高等学校初任者研修・公立学校実習助手初任者研修」を開講しました。高等学校教諭38名、実習助手9名、合計47名が参加しました。
 開講式では大沼博文教育長より挨拶があり、東日本大震災後の状況、第7次福島県総合教育計画の理念、教育公務員としての自覚と責任等、初任者への熱い思いを述べました。
 初任者の先生方は、これから始まる教員生活に向けて、気持ちを引き締めている様子でした。
 福島県教育委員会では、教員として一歩を踏み出す先生方が、チーム福島の一員として、先輩の先生方とともに一丸となって教育活動に取り組むことができるよう、支援していきます。

 教育長からのメッセージ(本文)は、以下のとおりです。

初任者へ熱い思いを語る大沼教育長

【はじめに】

 福島県公立学校教職員として採用された皆さんを、心からお祝い申し上げます。本日は、初任者研修のスタートに当たり、本県教育が進もうとしている方向性や、皆さんに期待することなどについてお話しします。
 私は1981年、本県教員に採用後、県立高校で地歴公民科の教諭として25年間、教壇に立ちました。その後、県教育委員会での勤務や教頭、校長を経て、2019年に定年退職。現職に就任したのは昨年4月で、2年目に入ったところです。高校で仕事をしたOBの一人として、皆さんがチーム福島の一員に加わってくれたこと、とても嬉しく、頼もしく感じています。

【東日本大震災から12年 -当時を振り返って-】

 東日本大震災と原子力災害から12年が過ぎました。皆さんはあの時、どこでどんな生活をしていたでしょうか。皆さんの多くは当時、小中学校や高校に在学していて、過酷な経験をされた人も少なくないと思います。
 私は、発災時、県教育委員会で勤務をしていました。その後、県庁が使用できなくなったため、隣の福島第一小学校が教育委員会の対策本部となり、福島南高校などにも間借りしながら業務を継続しました。
 県立高校に関することについて、当時の状況を振り返ると、生徒・教職員の安否確認に始まり、合格者発表・入学式のタイミングと方法の検討、人事異動の7月末までの凍結、相双(そうそう)地域の高校を存続させるためのサテライト方式の導入、教員採用試験の実施の判断(高校・特別支援学校は一部教科のみ実施、小中学校は中止)、8月に開催が予定されていた全国高等学校総合文化祭(ふくしま総文)実施の判断など、たくさんの課題に追われる日々でした。
 教育委員会も学校の教職員も、土日昼夜なく、子どもたちの教育環境を守り抜くため、必死に対応していたことを思い出します。当時の教育長が、「生徒の声に耳を澄ませて、現場の教員を信じてやっていこう」と職員に言葉をかけていたことが、今も忘れられません。
 あれから、12年。この間の教職員の努力と、本県に思いを寄せてくださる多くの皆さんからの御支援により、学校教育の環境は次第に落ち着きを取り戻し、現在に至っています。こうした時間の積み重ねの上に、皆さんが勤務することとなった学校が今、存在しているのだということを、しっかりと心に留めておいてほしい。このことが、私が伝えたいことの一つ目です。

【第7次福島県総合教育計画の理念】

 本県の復興は一歩ずつ進んで来たとはいえ、道半ばです。原子力災害に伴う風評の問題、廃炉や汚染水・処理水の問題など、今後も様々な課題を乗り越えていかねばなりません。また、この3年余で私たちの日常生活を一変させた新型コロナウイルス感染症や、国際情勢の急激な変化など、将来を予測することが極めて困難な社会となっています。正解が一つとは限らない社会の中で、一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せを実現するには、子どもたちに自らの力で人生を切り拓き、多様な他者とともに豊かな社会や地域を創造する力を育んでいくことが必要です。
 こうした状況を踏まえ、県教育委員会は、昨年度から「学びの変革」を柱に掲げ、第7次福島県総合教育計画に基づき、様々な施策を展開しているところです。
 配付資料「『学びの変革』実現ビジョン」は、7次計画に掲げた理念と国内外の教育の潮流との関係や、計画の核に位置づける「学びの変革」と「学校の在り方の変革」を進める上で重視する視点などを整理したものです。時間の都合上、内容の説明は省略しますが、県教育委員会のHPトップ「重要なお知らせ」に「教育長からのメッセージ」として、ビジョンの説明と動画をアップしていますので、ぜひ御覧ください。
 不確実で複雑な時代、AIが社会の在り方を変える時代においては、人間の強みである文章や情報を正確に読み解き対話する力、教科固有の見方・考え方を働かせて考え表現する力、対話や協働を通して新しい解や納得解を生み出す力、そして非認知能力を育成することがますます重要になります。
 そのために最も大切にするべきことはいうまでもなく授業です。今ほど述べた資質・能力を育む授業をつくり出すことこそが、教育のプロとしての皆さんが担うべき最も重要な使命です。先輩教職員がこれまで積み上げてきた豊かな実践の上に立ちながら「学びの変革」を推進し、個別最適な学び、協働的な学び、探究的な学びを実現すること。このことが、私が伝えたいことの二つ目です。

「令和5年度高等学校初任者研修・公立学校実習助手初任者研修」の開講式にて

【教育公務員としての自覚と責任】

 三つ目は、教育公務員としての自覚と責任についてです。
 福島県浅川町出身の世界的な病理学者である吉田富三先生は、「人間には二つの義務がある」という言葉を残しています。一つは社会に貢献する義務、もう一つは自分の生活を全うする義務です。そして先生は、このどちらかが欠けてもいけないし、偏ってもダメだと述べています。
 皆さんは、教員採用試験実施要項の冒頭に掲げた「求める教員像」を目標として、本県の教員を志したことと思います。「高い倫理観と教育に対する情熱・使命感を持ち、児童生徒に伴走しながら学び続ける教員」を目指し、教育公務員としての矜持と使命感をもって、本県の教育に貢献することが、社会に貢献する義務を果たすことにつながると考えます。
 一方で、自分の生活を全うする義務も重要です。ワークライフバランスをしっかりと保ち、心身ともに健康であることが一つ目の義務の前提となっていくのです。
 教育は、教職員や学校に対する信頼の上に成り立っています。子どもたちが教職員を信頼できないところに教育は成り立ちません。保護者や地域が学校を信頼できないところに理解と協力は生まれません。このことをしっかりと受け止め、全力で職責の遂行に努めてください。

【おわりに】

 最後に、皆さんへのメッセージとして、言葉を一つ贈ります。
 「学ぶ教師だけが教えることができる。」
 これは、私が尊敬する教育哲学者である林竹二先生(元 宮城教育大学長)の言葉です。
 本研修は、皆さんが実践的な指導力や使命感を養うとともに、教職員としての幅広い知見を身に付けることを目的として、1年間にわたり実施いたします。本研修から教職員としての一歩を踏み出す皆さんには、絶えず研究と修養に励み、教科指導はもとより、生徒指導や進路指導等についても多くの知識と実践力を身に付け、今後の教職員生活の基礎となる資質の向上に努められるようお願いいたします。
 皆さんの今後の活躍を心から期待し、挨拶といたします。

※相双(そうそう)地域は、太平洋の沿岸部「浜通り」地方に位置し、東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、多くの方々が避難生活を余儀なくされた地域です。

福島県ホームページ 相双地域の概要より(一部抜粋)