ふくしま教育通信 2024年2月号 リレーエッセイ「女性活躍の本質とは?」 福島県教育委員会委員 髙橋 理里子
ここ最近、女性活躍に関わるコンサルティングの依頼が増加している。たいていの場合、カウンターパートは組織内の人事や女性活躍推進室、ダイバーシティ担当者等だ。経営層から女性活躍推進施策の定量的効果検証を求められている彼らは、効果的な取り組み方法や、当事者のマインドセットを目的としたセミナー実施を求めている。そして、異口同音にこう訴えてくる。「女性は管理職になりたがらない」「結婚・出産のタイミングでモチベーションが下がる」「仕事と家庭の両立が大変という理由で離職する」「上昇志向のある女性は少ない」等々。
いやいや、決してそうではない。多くの女性は「いま目の前にいる管理職のような働き方をしたくない」だけである。目の前にいる管理職とは、時間外は増えるが残業代がつかなくなり、仕事の責任が増え、家庭を犠牲にしているという存在(イメージ)だ。また、入社3年から5年のうちに諸先輩の様子を見て、「結婚・出産すればキャリアは横ばいになる」という現実を知る。無理をして仕事上の「壁」を超えようとは思わず、「現状維持」という選択をしているだけなのである。
長時間残業ができる人しか評価されない現状を日々痛感し、長時間労働に耐えて自分のキャリアを築くか子育てに注力するかで悩み離職する者も多い。長時間労働や休日出勤をしないと昇進できないことに合理的理由を感じられず、それらと引き換えになっている昇進は当然ながら望まない。「働き続けたい」「仕事で活躍したい」と思っていながらも、前述のような職場風土が蔓延している状態では内発的モチベーションが湧き上がる源泉を見つけられないだけなのだ。これは当事者だけの問題ではなく、VUCA時代の経営戦略として組織の大きな課題となっている。
ハーバード大学の人口学者、デービッド・ブルームが提唱した人口ボーナス期であれば、生産年齢人口が継続して増え、従属人口比率が低いことから、長時間労働による高度経済成長が可能となっていた。そのため、残業代の含まれた手取りの多い給与という外発的モチベーションが、労働者のモチベーション維持に大いに貢献していた。しかし時代は人口オーナス期となり、生産年齢人口は減少し働き方改革が叫ばれている。人口ボーナス期と同じ長時間労働ありきの働き方をしている男性中心のマネジメントしか出来ない組織では、女性に限らず全ての社員の内発的モチベーションを維持することが難しい。外発的モチベーションだけで満足度を高めることができた時代はすでに終了し、組織成長のためには個々人の内発的モチベーションを支援する組織内風土が必要であるが、残念ながらこのことに気が付いている経営層・管理者層はまだまだ少ない。
女性が働きがいを感じ活躍できる職場とは、女性も男性も、若手もベテランも、健常者も障がい者も、全ての人が活躍できる職場であるということだ。そのためには当事者だけのマインドセットではなく、経営層・管理者層を含む組織の全員が同じ情報を共有し、コンセンサスを図ることが不可欠となる。ワークライフバランスを体現している管理職の存在も重要だ。「ああいう働き方なら自分にもできる」と思える上司の存在が、管理職を目指す理由のひとつになり得るからだ。
世の女性たちが、キャリアか出産かを選択する必要がなく、男性以上に成果を出さないと評価されないわけでもなく、ライフイベントで働き方を制限しなくてもいい職場環境があって、たとえ家庭に入ることがあっても、たとえ産まないという選択をしたとしても、周りの目を気にすることなく、肩身の狭い思いをすることなく、自分らしい生き方が出来る社会が実現できる日まで、今後も伴走者として取り組んでいきたい。
近い将来、大きな翼を広げて社会にはばたく子どもたちの、明るい未来に繋がることを信じて。
(執筆:福島県教育委員会委員 髙橋 理里子(たかはし りりこ))