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ふくしま教育通信 2024年1月号         日々の思い「ふるさとへの思い」        高校教育課県立高校改革室長 中野 正人

 毎朝の出勤途中、県庁の南側に架かる「天神橋」を渡ってくるのですが、県庁に勤務して2年目の初冬に、流れに逆らって泳ぐ鮭の姿を発見しました。こんなに海から離れた都市部の川で、繁殖のため遡上する鮭の姿を見つけて大変驚きました。

天神橋の中ほどで撮影

 鮭は、川で生まれ、広い海に出て、オホーツク海やアラスカ湾などで4年ほど過ごし、成熟魚になって再び生まれた川に繁殖のために帰ってくるのだそうです。どうやって遠い海から生まれた川に帰って来られるのかには諸説ありますが、いくつものアミノ酸で組成される「川のにおい」や地球の磁力によるものとする説が有力なようです。いずれにしても故郷の川を目指して傷だらけになった鮭の姿を見て、なんとも頼もしいような嬉しいような思いが湧くとともに、自然の営みの不思議に感動しました。それから毎年その時期になると、橋の上から川の中をのぞくという、端から見れば少し不審な行動をとっておりました。おかげでほぼ毎年見つけることができておりました。

弁天山から臨んだ福島市。画面中央が信夫山、左端にあるのが阿武隈川に架かる天神橋。

 私の3人の息子たちも大学での生活を終え、福島県に帰ってきてくれるものと思っておりましたが、残念ながら都会での生活に流され、戻ってくる気配がありません。鮭のようにはいかないものです。一旦外へ出てしまうと、戻って来ない状況は我が家だけの話ではないと思います。若者が根付くためには、「仕事があること」「そこで暮らしたいと思う魅力があること」または「そこに暮らしたいという思いを持っていること」が必要です。

 本県でも将来地域に貢献できる人材の育成が求められており、地域探究型学習を充実させ、地域の方々との交流を通して地域の一員としての貢献意識を高めるような取組を行っているところです。こうした地域課題の解決に向けた探究活動を経験した若者たちが、海に降りずに川に残った鱒のように、地域を支える人材となってくれることはもちろん、鮭のように広い世界を経験して知見を高め、様々な分野で地域や福島、日本を支える人材になってくれるよう、取り組んでいきたいと思っております。
(執筆:高校教育課県立高校改革室長 中野 正人(なかの まさと ))