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2024年12月号 編集後記                        「大学に行くとは、『海を見る自由』を得るためなのではないか。」           教育総務課長 柾木 渉

 年の瀬を迎えました。福島の朝はグッと寒くなりましたが、この寒さで思い出すことの一つは、「受験シーズン」です。
自分自身の受験も然りですが、塾講師をしていた頃、東京の「お受験」では、「駅激(受験当日、塾最寄り駅や受験校前で塾職員が激励をする)」なるものをしていたため、寒空の下、周りの講師たちと児童・生徒の激励をしていたことが思い出されます。
 庁内においても、高校受験や大学入試を控えるご家庭があり、中にはダブル受験を迎える(高校受験、大学受験を同年度に迎える)ご家庭もあり、進路選択・受験は各家庭でのビックイベントとなっています。


●2人に1人が大学進学(福島県内高校卒業生)

 福島県内の高校生のうち大学等(※)へ進学した者の割合は、年々増加を続け、令和5年度に初めて5割を超え、50.1%となりました。
令和5年3月に高等学校を卒業した14,494人のうち、7,265人が大学等へ進学しており、福島県内の高校生の2人に1人が大学や短期大学等へ進学していることとなります。同年度の全国平均は60.8%であり、福島県の大学等進学率は、全国平均よりも10ポイント程度低い数値となっています。

(※大学等:大学(学部)、短期大学(本科)、大学・短期大学の通信教育部(正規の課程)及び放送大学(全科履修生)、大学・短期大学(別科)、高等学校(専攻科)及び特別支援学校高等部(専攻科))

(図:福島県内高校生の大学等進学率【出典「一目でわかる福島県の指標2024」より作成】)

●大学入試はどう変わったか

 1990年に共通第1次学力試験に代わり始まった「大学入試センター試験」は、2021年1月の試験より、「大学入学共通テスト」として実施されることとなりました。
 この移行により特に伝えられたメッセージは、知識重視、一問一答ではなく、「より思考力・判断力・表現力等を重視」した試験へ転換することです。これに伴い、共通テストのみならず、各大学において行われる個別試験においても、同様の転換が図られるようになってきています。
 こうした潮流は、「知識及び技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」を重視する今般の学習指導要領改訂と軌を一にするものです。

●新規教科「情報」が意味するもの

 加えて、来月行われる2025年度入試(2025年1月に行われる共通テスト)より、「情報」が共通テストの新規教科として加わります。共通テストに新規教科が加わるというのはとても大きな変化であり、それだけ、今後の社会において求められる資質・能力であると捉えることができます。
 今の高校生が学ぶ「情報」にはどのような内容が含まれているのでしょうか。新しい学習指導要領の「情報」の中では、以下のような柱が立てられています。

(1)情報社会の問題解決
  ・・・情報と情報技術を活用して問題を発見・解決する方法を身に付け、
     考えること など
(2)コミュニケーションと情報デザイン
  ・・・コミュニケーションの目的を明確にして,適切かつ効果的な情報デ
     ザインを考える など
(3)コンピュータとプログラミング
  ・・・コンピュータで扱われる情報の特徴とコンピュータの能力との関係
     について考察すること など
(4)情報通信ネットワークとデータの活用
  ・・・情報通信ネットワークの仕組みや構成要素,プロトコルの役割及び 
     情報セキュリティを確保するための方法や技術について理解するこ 
     と など

 前項の「大学入試はどう変わったか」にも関わるところですが、ネットワーク上に「知識・情報」が蓄えられる時代となり、私たちにはそれを、どのように整理し、活用・表現するかが求められるようになりました。
特に人口減少社会においては、個人の力を発揮していくことがより求められるようになり、ICT・ネットワークの発展に伴い、こうした資源を最大限活用できるか否かで、社会の生産性は大きく変わることが想定されます。
 そのため、今後の社会においては、情報機器・ネットワークとうまく付き合いながら、知識・情報を正しく取捨選択し、それらを整理して表現していく力が求められます。それが「思考力・判断力・表現力等を重視した試験への転換」が図られた背景の一つと捉えることができます。

●大学ってそもそも、、、

 このように、時代に応じて大学入試改革や学習指導要領改訂に伴い、入試や学校教育は変化を続けますが、受験が全てではないことは言うまでもありません。「大学入試がゴールではない」。この言葉は、おそらく、入試を終えた受験生が学校や塾、家庭から最も伝えられる言葉かもしれません。
そもそも「大学」とはどのような場所なのでしょうか。

【学校教育法】
第八十三条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。
②大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。

 法律上は、以上のように位置付けられており、「教授研究」という言葉があります。そもそも大学は広く知識を授けるとともに研究を行い社会の発展に寄与することが求められる機関となっています。大学の法律上の定義や各大学のアドミッションポリシー(どんな人に入学してほしいかを示した、大学からのメッセージ)を再確認すると、詰め込み重視の入試であってはならないことが改めて認識できるかと思います。

●「海を見る自由」

 一方で、大学在学中の期間は、余白の時間を柔軟に活用できる貴重な期間であると思います。関連して、印象に残っている言葉があります。

 2011年、東日本大震災発災直後、立教新座中学校・高等学渡辺憲司校長が、卒業生へ送った言葉の一節です。

 卒業式を目前にして発生した東日本大震災という歴史的な大災害を経てもなお、渡辺校長はそれを踏まえながら、「海を見る自由」という表現を用いながら、自己を直視し、それに応じて行動してみよというメッセージを詩的・叙情的に述べています。(ぜひ原文をお読みください。)
 近年、学校教育においても「自己決定の機会」がより重視されるようになってきましたが、大学においても自己決定による行動が、人生を豊かにする、そんな願いが込められたメッセージでした。

 これから大学入試を迎える皆さんにとって、この入試が生涯にわたって社会を生き抜く資質・能力を身につける機会となり、また、自らの探求心に突き動かされ生涯にわたっての学習者となるよう、まずは共通テストや個別入試において最大限力を発揮できるように祈っています。
(そして保護者の皆様も気苦労の絶えない期間かと思いますが、思い出の期間となればと思います。)

福島県教育総務課長 柾木 渉