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【震災から12年】「福島を生きる」~アナウンサー大和田新さんの講演から~

 東日本大震災からまもなく12年となります。今の小学生はまだ生まれておらず、幼くて記憶が定かでない中学生や高校生もいるかもしれません。
 ここでは、アナウンサーの大和田新さんによる、東日本大震災の取材を通して感じたこと、今の子どもたちに伝えたいことをご紹介します。
 (この記事は伊達市立松陽中学校での講演を福島​県教育委員会発行「道徳のとびら」に掲載した内容です。)

今日という日は次の災害が起きる前の日かもしれない

 11年7ヶ月前の話をします。でも過去の話ではないのです。
 「今日という日は、次の災害が起きる前の日かもしれない」ということを認識してほしいのです。
 台風19号でも大きな被害がありました。災害は今も起こり続けています。災害が残した爪痕をしっかりと心に刻んでもらいたいのです。只見線がようやく復旧しましたが、まだ県内で災害の被害から復旧してないところはたくさんあります。災害は他人事ではないのです。
 当時「ここまで逃げれば大丈夫」、そう思っていた人が多くいました。しかし、大丈夫ではなかったのです。多くの方が亡くなりました。
 私たちは津波に対してどのくらいの知識があったのでしょうか。1メートルの津波の計算上の死亡率は100%と言われています。北海道南西沖地震の被害も大きいものでした。東日本大震災だけがすべての災害ではありません。これらの災害に対応し、これからの未来をつくるのは、皆さんなのです。

自分の命は自分で守る

 若い人たちにも震災のことを伝えなくてはならないという思いから、「ひとつ」という紙芝居をつくりました。
 この話は、当時いわき市に在住していた高校2年生(男子)の話です。地震直後、彼は、自宅を跳び出し祖父母の家へ向かいました。途中、多くの人へ避難を促します。小さい頃からよく知る後輩やお年寄りをストレッチャーで運びながら道に迷って困っているデイサービスの人にも手を差し伸べ避難を促しました。その後、彼は祖父母のいる家に向かい、津波に巻き込まれてしまったのです。「人の命を救う」という使命感をもって、17年間生きてきた高校生でした。
 私は、紙芝居をご両親に見てもらった後に、感想を聞きました。お母さんは「息子をヒーローにするのはやめて」「誰も救わなくてもいいから生きていてほしかった」と話されました。では、どうしたら彼は、生きているこ
とができたのでしょうか。
   もし、当時一人一人が、「私は大丈夫」と思わずに危機管理に対する意識があったのなら・・・。誰もが自分の命を自分で守る準備ができていたら・・・。救えた命があったかもしれません。ですから、何があっても自分の命は自分で守ることが大切なのです。
  岩手県には「つなみてんでんこ」という教えがあります。地震で津波が来たら「てんでんばらばらに逃げ、逃げたところで落ち合う」という教えです。この教えを守った地域では、小中学生の多くが助かりました。小中学生は「つなみてんでんこ」と、大きな声で走り回りました。それに合わせて、
地域の人も避難しました。こうして自分たちも地域の人も守ったのです。そういう教えを大切にしている地域が命を救ったのです。

大和田さんの講演を聴く松陽中学校の生徒


Q:私たちは校外学習で請戸小学校に行き、被害の大きさに驚きました。当時、津波が起きたことを知りどう思いましたか。

 あの時は、ラジオもテレビも「福島県沿岸部に津波注意報が出されています。沿岸部には近づかないでください。」と淡々と通常通りに流れてきた原稿を放送していました。当時の私たちメディアは勉強不足だったのです。でも、1メートルの津波でも人が死んでしまうという認識があれば、もっと具体的に強く伝え、多くの人の命を救えたのではないかとすごく反省しています。

地域力が命を救うことにつながるのです

Q:たくさんのご家庭を取材した大和田さんが、福島県の小中学生のお子さんをもつご家庭へ伝えたいことはどんなことでしょうか。

「あいさつ」です。コミュニケーションですね。
 北海道の胆振東部地震(いぶりとうぶじしん)では、残念ながらたくさんの方が亡くなっています。それでも二次災害がなかったのです。自衛隊にも警察も消防も二次災害がなかった。これは奇跡に近いことなのです。それは、「この家は、おじいさんとおばあさんが二人暮らしで二階の東側に寝ている」「この場所は危ないから、こっちを通りなさい」とみんなが分かっていたからなのです。
 これは、地域力です。地域でみんながあいさつをする。コミュニケーションをとる。このような、地域力が命を救うことにつながると感じています。
 ですから普段から「ありがとう」を伝えているかということですね。「いただきます」も大切です。そこにあった命をいただき、自分の命にするのだということをご家庭でも子どもたちに教えていかないといけないと感じます。家庭や地域でのあいさつやコミュニケーションが命を救うことにつながると考えています。


 福島県教育委員会では、福島県ならではの道徳教育を進めています。
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