ふくしま教育通信 2024年11月号 リレーエッセイ「Well-beingとEQ」 福島県教育委員会委員 高橋 理里子
皆さんはEQという言葉を聞いたことがありますか?
EQ(感情知能)とは、Emotional Intelligence Quotientの略称で、自身や周囲の人達の感情を適切に察知し、感情に翻弄されず、自分らしさを探求し、より快適な日常を創造したり、仕事や人生を成功へ導いたりするために必要不可欠な能力です。
IQ(Intelligence Quotient=知能指数)が遺伝的な資質による学習能力であるのに対し、EQは誰もが開発可能で、有効に活用することができます。
EQに注目が集まり始めたきっかけは、1990年代にアメリカの心理学者ピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏が、研究結果からビジネスにおけるEQの重要性を説いたことでした。
小さいころから非認知能力の基盤となるEQを学ぶことは、子どもたちが自分の感情を理解し、他者と協力してより良い人間関係を築き、将来的な成功と幸福につながる重要なスキルを育むことへと繋がります。現代の社会では、学力だけでなく、感情や人間関係のスキルも豊かな人生を送るために欠かせません。
EQを学ぶことによって、子どもたちは次のような力を身に付けることができます。
1.自己理解と自己管理
子どもたちは自分の感情に気付き、その感情が行動や人間関係にどう影響するかを理解できるようになります。たとえば、イライラしたり不安になったりする自分を冷静に受け止め、適切な対処法を見つける力が養われます。これにより、衝動的な行動を避け、ストレスを効果的に管理することができるようになります。
2.共感力と対人スキル
EQは、他者の感情や立場を理解し、共感するためにも役立ちます。共感力を高めることは、友達や家族、さらには学校や地域社会での良好な人間関係の基盤となります。子どもたちは他者の考えや気持ちに耳を傾け、異なる価値観を尊重することを学ぶことができます。これは、人間関係を築く上で非常に重要なスキルであり、集団の中で協力して物事を進める力として将来も役立ちます。
3.自主性と内発的モチベーション
自分で目標を設定し、それに向けて努力する力も大切です。子どもたちは、達成したいことや自分の役割に対する意識が高まることで、学習や活動への意欲も向上します。これは「自分で選び、自分で行動する」自主性を育むうえで非常に重要であり、達成感や自己効力感を感じることで、さらに努力しようとする姿勢が強まります。
4.楽観性とレジリエンス
困難に直面した際に冷静に状況を分析し、柔軟に解決策を見出す力が養われます。たとえば、失敗を「自分の成長のチャンス」として捉え、あきらめずに再挑戦するレジリエンス(柔軟性・回復力・適応力)もEQ教育で培われる重要なスキルです。子どもたちは、トラブルや挫折を経験しても前向きに乗り越え、目標に向かって努力し続けることができるようになります。
将来的なキャリア形成においても、EQは職場での人間関係を築き、課題を前向きに解決する力として役立ちます。
現代の職場では、コミュニケーション能力やチームで協力する力がますます求められています。EQ教育で培われた自己認識や共感力、柔軟な思考は、社会に出てからも人間関係を円滑にし、リーダーシップや問題解決能力として評価される要素となります。また、目標達成や自己管理能力が備わっていれば、ライフイベントやキャリアの節目においても柔軟に対応し、自己成長を続ける姿勢が備わります。
近年、子どもたちの自己肯定感や自尊心を高めることが課題であると耳にすることが多くなりましたが、子どもの頃からEQを学ぶことによって、学校や社会で直面するさまざまな状況への適応力と成長し続ける力を身に付けることが可能となり、Well-beingの実現へと繋がることが報告されています。
社会が多様化し、変化が激しい現代において、自分や他者の感情を理解し、うまく対処できる力は非常に大切なものです。EQ教育が今以上に認知され、子どもたち一人ひとりが安心して成長でき、より豊かな学びと人間関係を築く力を育むとともに、将来のキャリアでの成功と充実した人生を歩んでくれることを心から願っています。