ふくしま教育通信 2024年3月号 リレーエッセイ「知らせる努力と産学官の連携」 福島県教育委員会委員 正木 好男
令和6年2月に、内堀知事や大沼教育長出席のもと開催された福島県総合教育会議では、「若者の県内定着・回帰に向けた推進」が議題に取り上げられた。小生が生活するいわき市でも、以前から高校卒業後に6割強の若者が県外に流出している。
そこで対策として、8年前の平成28年に「いわきアカデミア協議会」を設立した。この協議会は、いわき商工会議所・いわき市・福島県いわき地方振興局が中心となり、経済団体・産業界・高等教育機関・いわき地区高校校長会・金融機関・NPO等が連携参加して設立したものである。故郷に対する誇りや愛着心を醸成し人材の定着・還流を図ること、世界に羽ばたいても故郷で育ったことを忘れない人材を育むこと、そして子どもたちの半歩先の成長を促進することを目的としている。
協議会の活動プログラムは、小学生から大学生までのキャリア教育をサポートする内容となっており、今回は高校生向けのいわき発見ゼミについて紹介する。
いわき発見ゼミは、高校1年生が「総合的な探究の時間」の一環として、市内企業を訪問するというものである。経営者や現場で働く職業人から仕事への情熱や人生経験、職業観などを聴き、市内企業への理解を深めるとともに自らの進路や生き方を考える機会を提供する、というプログラムである。
このプログラムは一般的な企業見学とは異なる。まず、8つの見学コース(工業、ものづくり、医学、まちづくり、地域連携、観光サービス、地域創生、SDGs)の中から高校生が選択し、各企業から事前に取り組み課題が提示される。訪問前に高校生はグループ討議し、訪問先では与えられた課題に対するプレゼンテーション(以下プレゼン)を実施。あわせて企業側と意見交換を行う。訪問後は、学んだことを学校に持ち帰り、それをもとにプレゼンのブラッシュアップを行い、後日、企業も交えて発表会を実施するというブレインストーミング(ブレスト)型のプログラムである。
今日までこのプログラムに参加した生徒数は、延べ4600名、訪問企業数は254社を数える。実施後、高校生に行ったアンケートでは、87%が将来を考えるきっかけになったと回答。主な感想として、「①地元企業について新たな発見ができ、自分の将来について考えることができた。②今までは地元で就職することなど考えていなかったが、地元でも働きやすい企業(があること)を知って良かった。③世界的な技術が『いわき』にあることにとても感心した。」などが寄せられた。
手前味噌になるが、小生はいわきアカデミア協議会の会長として設立から今日まで関与している。今後とも、本協議会の活動を関係機関と連携しながら推進していきたい。単純なことだが、産学官が連携し、子どもたちに郷土の文化や歴史、まちの実態について知らせる努力が大事である。小さな一歩かもしれないが、そのことが結果として若者の県内定着に寄与することに繋がるのである。
(執筆:福島県教育委員会委員 正木 好男(まさき よしお))