2024年5月号 リレーエッセイ 「必ず儲かる話」が本当にあったとしら・・ 福島県教育委員会委員 吉津 健三
1.20代に多く見られる儲け話詐欺
最近、オレオレ詐欺のニュースが少なくなったような気がする一方、SNS投資詐欺のニュースを多く見かけるようになりました。弁護士をしていて、時々、「儲け話」で損害を被ったという相談を特に若年(20代前半くらい)の方から受けます。そこで、「儲け話」について書きます。
2.詐欺に支払ったお金はどうなる?
「儲け話」による損害の相談として、ある意味、非常に単純なものでは、○○必勝法というもので、手数料数十万円を振り込み、送付されてきた「テキスト」通りに○○をしてみたけれども、全然、儲からないというものがありました。少し手の込んだところでは、「楽をして儲かる」副業を斡旋するというもので、手数料100万円を振り込んだけれども、「楽をして儲かる」副業を紹介されることはなく、やがて、当該業者に電話をかけても繋がらなくなっていたというものもありました。いすれの事案もインターネット上だけでやり取りが行われていました。また、相談者は、20歳そこそこの年齢で、振り込んだお金は消費者金融から借り入れていましたので、消費者金融には月々の返済を数年間し続けなければならないという状況に陥っていました。
このような場合、私は、振り込んだお金はおそらく取り戻せないし、他方で、消費者金融には返済し続けなければならないと回答するしかありません。詐欺被害として警察に相談するよう助言もしますが、首尾良く警察が刑事事件として受理してくれて、容疑者が摘発されたとしても、民事事件としてのお金の取戻しは、引き続き、極めて困難と言わざるを得ません。
3.儲け話があったら、他の人に教える?教えない?
私は、顧問先企業の新入社員研修で、こうした「儲け話」の被害に遭わないようにするための講義をしています。その席で、受講生に「世の中に必ず儲かる方法があるとして、あなたがそれを知っていたとしたら、どうしますか?」という質問をしたところ、「友達に教えてあげる」と答えた人がいました。私は「友達思いだね」などとくすぐった後、「自分だったら、本当に世の中に必ず儲かる方法があるとしたら、絶対、人には教えないで自分だけ儲けるなぁ、そして、友達にはご飯でもご馳走してあげるかな」(受講生「え!」という顔)、「なぜなら、儲かる方法を人に教えた瞬間に自分の儲けが少なくなり、最後は全く儲からなくなるからだよ」と教えています。
4.インターネット上の矛盾を見破れ
世間ではインターネットを中心に「必ず儲かる」「絶対に値上がりする」などという誘い文句が躍っています。しかし、儲かる原資が無限であるはずがない以上、必ず儲かる話があると人に教えた瞬間に、その教えた人が更に別の人に教えるなどすれば、いずれ、教えた人の取り分は減り、最後は枯渇するというのが論理的帰結になります。
したがって、仮に、本当に必ず儲かる方法があるとすれば、それを人に教えた瞬間にその方法は儲からなくなります。つまり、儲かる方法があることと、それを口外することは完全に矛盾しているのです。必ず儲かる方法があると聞かされた人は、何らかの損をする話に違いない、だからその話に乗ってはいけないと思わなければならないのです。
5.学校で教えなくても覚えておこう!
こうした詐欺被害の予防や、連帯保証人の責任、掛払いで買い物をすることのメリットデメリット、人にお金を貸すことのリスク等々を学校でも教えられているのかもしれませんが、18歳成人になった今、こうした教えは益々重要になってきていると思います。高校の卒業式で、教育委員として、はなむけの言葉を述べる際、一言、詐欺被害予防の話を付け加えようかと思ったこともなくはありませんでしたが、小心者ゆえ、未だそのようなトライをしたことはありません。若年者の特に詐欺被害を予防するため、学校現場で何か一工夫していただけることを希望する次第です(既に一工夫も二工夫もされていましたらお許しください)。
(執筆:福島県教育委員会委員 吉津 健三(きつ けんぞう))