ふくしま教育通信 2023年10月号 日々の思い「私の生きる価値観が変わった『言葉』との出会い」 2022年度文部科学大臣表彰 教育者表彰 前 大熊町立学び舎ゆめの森校長 佐藤 由弘
生きていく中で、人にはそれぞれ価値観が大きく変わる転機が何度かあるのだと思います。私にとっては、12年前の東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故という出来事が、その転機の一つです。その時に、その後の人生で、生きていく上で価値観が大きく変わるきっかけとなった、「2つの言葉」との出会いがありました。
【2つの言葉 〜 「疾風勁草」 と 「汝、何の為に其処に在りや」 〜】
一つの言葉は「疾風勁草(しっぷうけいそう)」という言葉、もう一つは、「汝、何の為に其処に在りや」という言葉です。当時、私は、福島県教育委員会事務局で仕事をさせていただいていました。未曾有の出来事で、次から次へと大変な問題が発生して、大人の誰もが今までの経験則からでは、なかなか正解を見出すことができない、そんな状況で心に刺さった二つの言葉です。どちらも、当時の上司、先輩から投げかけられた言葉です。大袈裟(おおげさ)かもしれませんが、この2つの言葉が投げかけられた時、私自身の「生きる覚悟」のようなものを問われたように感じました。
【「学び舎ゆめの森」という新たなシンボル】
縁があって、定年退職前の2年間、大熊町の幼稚園・小中学校で園長・校長をさせていただき、熊町、大野の2つの幼稚園と小学校、そして大熊中学校の閉園・閉校と、新たに義務教育学校「学び舎ゆめの森」の開校という、被災地の教育復興の節目に関わらせていただく機会を得ました。そして、今年(令和5年)4月、大熊町の認定こども園・義務教育学校「学び舎ゆめの森」が、実に12年ぶりに、0歳から15歳までの一貫教育を行う教育施設として、大熊町で再開を果たしました。さらに、6月には新教育施設が大川原に完成して、8月25日の2学期始業式より共用を開始しました。新たな教育施設に笑顔で入る子どもたちの姿をみて、震災発生当時、学校のあり方の「そもそも」を考え、復興の進むべきビジョンを明確に示し、その方向性を見失うことなく、12年間一歩一歩着実に復興の歩みを進めてきた諸先輩方に敬意を表すると共に、大熊町に対して長年に渡り、変わることなく支援してくださった多くの方々にあらためて頭が下がる思いです。
「疾風勁草」「汝、何の為に其処に在りや」。
たくさんの方々の強い思いが、新たな歴史を紡ぎ出していくのです。
(執筆:前 大熊町立学び舎ゆめの森校長 佐藤 由弘(さとう よしひろ))
※佐藤 由弘先生は、2022年度文部科学大臣表彰を受賞されました。