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2025年1月号 リレーエッセイ           学校とは― 映像作品からの問いかけ ―             教育長 大沼博文


宙わたる教室

 ドラマ好きの妻に感化され、いつの間にか帰宅後、録画した番組を観るのが習慣になった。仕事の頭を切り替えるスイッチになってもいる。昨年は、やはりNHK朝ドラの『虎に翼』が一番刺さったが、同じくNHKで放映された『宙わたる教室』も心に残っている。

 2023年に刊行され、昨年の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にもなった同名小説(※)のドラマ化である。夜間定時制高校に通う生徒たちと一人の教師が科学部を立ち上げ、学会で発表することを目標に火星のクレーターを再現する実験に挑む物語を軸に、年齢も育った環境も異なる生徒たちの様々な人間模様が描かれていく。
 「今って、通信制の高校とかいっぱいあるのに、何でわざわざ定時制なんですか?」と問われた生徒が、「単純に来てえからじゃねえか、学校に。不思議なところだよな、学校って。」と答える。精神的な孤立に思い悩む彼らが、誰かと時間を共有すること、学ぶことの大切さを知る。それを教えてくれるのが学校という場所なのだと、改めて胸に沁みた。

※『宙わたる教室』の著書である伊与原新氏は、今月15日、新作『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞した。


 年末年始は、ほぼ自宅でのんびり過ごす日々。そんな中、久しぶりに映画館で映画を2本鑑賞した。

型破りな教室

 一つ目は『型破りな教室』。舞台は犯罪が日常化する、アメリカとの国境に近いメキシコの町の小学校。教師集団の力による管理で、子どもたちが学習への関心を失っていた6年生の教室に、新任教師が赴任する。「君たちは23人、救命ボートは6つ。乗れない人は溺れる。どうする?」という問いを手始めに、主体的に考えさせる型破りな授業が始まる。 

 通学さえままならない厳しい家庭環境の中にあって、子どもたちは次第に能動的に考えを深め合うようになり、自分の夢、可能性を見出す子も…。
 この映画の一番の見どころは、子どもたちが次第に目の色を変え、表情が生き生きと豊かになっていく過程だろう。同時に、子どもたちの問いを引き出しながら意欲を喚起し、学ぶことがより良く生きることにつながることを体感させていく教師の姿も素晴らしい。実話をもとに制作されているということが、物語により説得力を与えているように思う。

小学校〜それは小さな社会〜

 二つ目は『小学校〜それは小さな社会〜』。コロナ禍の中で、世田谷区の公立小学校の様子を1年間記録し続けたドキュメンタリーで、海外の映画祭で受賞するなど、世界でも注目されている映画である。

 給食、掃除や運動会等の行事など、授業以外での活動場面が多く取り上げられているが、ナレーションや字幕はなく、季節の流れとともに児童と教師とのやりとりが淡々と、しかし生き生きと綴られていく。入学したばかりの1年生が上級生や担任に支えられながら学校生活になじんでいく様子、いろいろな経験を積んでたくましく成長した6年生同士の会話など、印象的な場面がたくさんあった。同時に、教師が児童と真摯に向き合い、悩みながらも成長していく姿にも心が動かされた。


 『宙わたる教室』と『型破りな教室』はフィクションである。でも、どちらの作品も、子どもたちにとって学びの場である学校がどうあるべきなのか、そして学校は、教師は子どもたちにどのような学びを提示していくべきなのか、深く問いかけている。
 一方で、『小学校~それは小さな社会~』は、集団性や規律を重んじる指導などを含め、いわゆる「日本型教育」の典型的な姿を丁寧に描いている。山崎エマ監督が「小学校を知ることは、未来の日本を考えること」と問題提起しているとおり、観る側の立場、実体験、価値観によって様々な受け止め、感想が生まれるはず。それだけに、先の2作品とともに、この映画のリアルを重ね合わせながら、学校という場所の意味や教育の在り方について、保護者や一般の方々も加えて対話を深めてみたい。そんなことに思いを巡らす今年のお正月だった。