ふくしま教育通信 2023年4月号 編集後記 教育総務課長 堀家 健一
この4月から、これまでメールマガジンとして配信してきた「うつくしま教育通信」を福島県教育委員会公式noteサイト内で発信する形に変更しました。これは、これまでの教育委員会による情報発信が教育関係者のみに閉じてしまっているのではという課題意識があったためです。社会に開かれた福島ならではの教育の実現へ向け、保護者の方々や地域、社会と思いを共有する必要がある。そうした観点から公式 note によるマガジンの配信としました。これからよろしくお願いいたします。
4月になりました。我が家にとっても2回目の福島県での春です。4月には義母が遊びに来て、娘2人とちょうど桜が満開になっていた花見山に行きました。去年よりも多くの人出。マスク着用が個人の自由な判断となったことも相まってコロナ以前のような活況です。娘たちは去年に続いて2度目のため「もうすぐ景色がいいところだよ」「ここのハンバーガー屋さんが美味しいの」と得意顔です。学校や保育園にも新しいお友達が入ってきて先輩気分。右も左も分からなかった去年とは違い、すっかり福島が我が町になっている様子です。そして我が家の妻や娘たちは花見山をはじめこの自然豊かな福島の生活を心の底から楽しませていただいています。
先日、料理研究家の土井善晴さんの著書を読みました。曰く、懐石料理のようなハレの料理と日常の家庭料理は全く違うもので後者は一汁一菜で良い。その究極の形は米と具沢山の味噌汁なんだと。この一汁一菜は素材が季節によって変わるとともに、米も漬物も味噌汁も、その日の気温や水加減、微生物の動きなどによって変化し、同じモノが一つとしてない。自然の山や花の美しさに見飽きることがないのと同様、自然が生きる一汁一菜の家庭料理にも飽きることは無く、食材そのものの味を生かしてあげれば十分に美味しいのだと。
この「自然の素材そのものを生かしてあげれば十分美味しいのだ」という言葉が福島での家庭生活の実感と重なり合い心に響きました。福島で生活していると自然の豊かさや季節の移ろいを感じます。週末に農協の直売所に行くと季節毎に並ぶ野菜や果物が変わっていく。どれも瑞々しく「食べて食べて」と訴えかけてくるよう。実際、東京で食べていたものよりも味も香りも濃く、あとは香りやアクが子どもにとって強すぎるものは、食べやすいようにしてあげれば良いだけと調理しています。
土井さんの自然の素材を生かすという言葉に触れたとき、これからの学校における子どもたちの学びの姿に思いを馳せました。現在はGIGAスクール構想の一人一台端末の下「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実が目指されていますが、これまでの学校教育は主として子どもたちに知識と技能を身につけさせることがその中心でした。経済成長期には上質かつ均質な労働者が必要なことから、社会のルールを身につけさせ、ある意味「型」に当てはめる部分もありました。それは土井さんが言う「ハレ」の料理であり、素材を一度白く無個性にした上で、旨みや彩りを加えるものだったのかもしれません。しかしながら、強くしなやかに新たな価値を生み出していくためには、画一化された資質ではなく、多様で一癖ある個性が必要なのだと思います。
季節の食材一つ一つが強烈な味や香りといった個性を持っているように、子どもたちもそれぞれの個性に基づく学ぶ力を持っているし、学びたがっている。その学びに向かう力をしっかりと育み、学び続ける自立した学習者へと導いていくことが重要になります。
その際、従来は「学びの場所」や「学びの方法」が教室の中の一斉授業に限定されていましたが情報通信技術の進歩によって、個性に合わせた学び方が可能になってきています。高度に情報化が進みChatGPTのような対話型のAIも開発されている社会にあって、情報通信技術をフル活用して、情報の真偽を判断しつつ必要な情報を組み合わせ、新たな価値を創造する力が求められています。
そのエンジンは、学びに向かう力です。子どもたち一人一人が内に持つ個性的な学びへの思いを、多様性を育みながら、伸ばしていきたいなと思っています。
今月も最後までお読みいただきありがとうございました。
(執筆:教育総務課長 堀家 健一(ほりいえ けんいち))