2024年8月号 リレーエッセイ 夏の日に思うこと 教育次長 箱崎 兼一
教育を語るな、教壇に立て。
この言葉に感激し、教育という仕事に携わって三十年あまりが過ぎました。
勝ってみてもはじまらない。負けてやっては不遜になる。教育とは、出会いを求めての愛の闘争。
振り返って、そう思います。
どうして言えなかったのだろう、あの言葉。
どうして伝えられなかったのだろう、本当の気持ち。
過ぎ去った時間を戻して、こうすればよかったと思うことがある。
きみが泣いたとき、本当は笑って、希望を手にして欲しかった。
きみが笑ったとき、本当は泣いて、勇気を手にして欲しかった。
空回りする情熱。届かぬ思い。空しさだけがいつも残った。
きみとどう関わっていったらいいのか、いつも手探りだった。
言うべき時に率直に言わなくてはいけなかった。
伝えるべき時にありのままに伝えないといけなかった。
やるべき時に強い気持ちを持ってぶつからないといけなかった。
忙しさにまぎれ、ぶつかることを恐れ、大切な何かを分かち合えなかった気がしてならない。
終わった過去を悔いているわけではない。
私なりに力を尽くしたからこそ、この苦い思いを感じざるをえない。
きみから学んだことを生かしていくことこそが、きみから私への宿題だと思う。
おとなへの階段を駆け上がり未来へと飛び立ったきみの今が、光り輝いていることを祈る。
教育という出会いの難しさ、複雑さ、厳しさ、重みに胸が痛みます。
だからこそ、その尊さ、使命、喜び、やりがいに胸がいっそう熱くなります。
この胸に感じる痛みと熱さこそが、語ることのできない、教育という仕事の深遠さではないか。
このことを胸に刻みながら、
福島から、学びの変革と学校の在り方の変革という新しい風を吹かせることができるよう、
教育現場の伴走者として、対話と協働を重ね、
やるべきことを一つ一つ着実に取り組んでいきたい。
夏の日に、思いを新たにしたところです。