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大沼博文教育長からのメッセージ ー 「学びの変革」の実現に向けてー

令和4年度からスタートした第7次福島県総合教育計画。
 福島県教育委員会では、「学びの変革」「学校の在り方の変革」を柱に掲げ、様々な施策を展開しています。
 変革を真に進めていくために、福島県の教育に関わる方々と計画の理念を共有したい。そんな思いから、大沼博文教育長からのメッセージをお届けします。 
 ※この記事の動画及び文章は、令和4年7月7日第2回県立学校長・副校長会議における教育長挨拶を一部修正したものです。
 教育長からのメッセージ(動画)
 → https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/522672.mp4

 教育長からのメッセージ(本文)は、以下のとおりです。

【はじめに】

 皆様には、生徒たちの学びの充実とそれを支える学校の環境づくりに、日々御尽力いただいているところであり、その御労苦に心から感謝申し上げます。
 さて、県教育委員会では、今年度から「学びの変革」を柱に掲げ、第7次福島県総合教育計画を展開しているところであります。変革を真に推進していくためには、変革を支える理念の絶え間ない深化と大きなビジョンの下、従来の学校の常識や見方、考え方の大きな変革を進めていくことが必要になります。
 そこで、本日は、国際社会や我が国の社会情勢、世界の教育の潮流や学習指導要領改訂の根幹と関連付けながら、7次計画の理念を改めて確認するとともに、変革を起こすためのビジョンを皆様と共有したいと考えております。

【我が国や本県を取り巻く社会の現状と変化】

 世界を見渡すと、地球温暖化に伴うゼロカーボン社会の実現やロシアによるウクライナ侵攻に伴う国際情勢の急激な変化と原油高騰など、多くの地球規模の社会課題が発生しています。また我が国においても、急速に進む少子高齢化、Society 5.0の到来が予想される中でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展など、急激な社会変化の中で、変化に対応するだけではなく、新たな変革を生み出す人材の育成が求められています。
 とりわけ本県では、全国を上回るスピードで人口減少や高齢化が進むとともに、東日本大震災と原子力災害からの復興・再生、廃炉と汚染水・処理水対策、風評・風化対策、さらには近年の相次ぐ自然災害への対応など、複雑で困難な課題に直面しています。これらの課題は、今後、日本全体、ひいては世界各国で直面することが予想される社会課題でもあります。よって社会や地域を創造できる人材の輩出は、本県のみならず、日本や世界における社会課題の解決に資するものとなります。

【OECDにおける議論と7次計画の理念】

 OECD、経済協力開発機構が2030年という近未来において子どもたちに求められる力について検討したプロジェクトでは、不確実で複雑な、誰も正解を知らない予測不可能な課題に向き合わなければならないこれからの時代において、個人と集団のWell-being、一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せを実現し、私たちの社会を変革していく上で、次の3つの力が必要であると指摘しています。それはすなわち、①新たな価値を創造する力、②対立やジレンマを克服する力、③責任ある行動をとる力であります。
 こうした力は、解決困難な課題を抱える福島でこそ求められる力であり、未来を担う子どもたちが身に付けるべき力であります。
 7次計画は、「個人と社会のWell-being」の実現を目指し、「急激な社会の変化の中で、自分の人生を切り拓くたくましさ」を持ち、「社会や地域を創造することができる人」を育成することを中核的な理念としており、正に近年の世界の教育が目指すところと軌を一にしていると言えます。

【多様性を力に変える教育】

 7次計画では、こうした教育の実現のために、「多様な個性をいかし、対話と協働を通して」、「多様性を力に変える教育」を重視しています。
「多様な個性をいかす」とは、昨年、中央教育審議会の答申で提起された「個別最適な学び」を指し、「対話と協働」とは、同答申における「協働的な学び」であり、さらに「多様性を力に変える教育」とは、同答申が提起する「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を、福島ならではの文脈で捉え直した表現であります。
 特に、震災と原発事故、そこからの復興の過程で多くの分断と対立を経験してきた福島においては、社会のあらゆるところで、誰も正解が分からないような困難な課題の解決に向けて対話し、協働してまいりました。「対話と協働」を積み重ねる中でこそ、自らと社会を変革し、未来を創り上げていく力が育まれます。それは、平和で民主的な社会の形成者を育成するという公教育の最大の使命でもあり、自らの自由と他者の自由を相互に承認しながら共に生きる市民社会の担い手、すなわち自由な市民を育成することにつながります。
 「多様性」はイノベーションを創出する揺り籠でもあります。
 そしてこれは「誰一人取り残さない多様性と包摂性のある持続可能な社会」の実現を目指すSDGsの理念にもつながります。7次計画で掲げた「多様性を力に変える教育」については、こうした大きな展望をもって捉えることが重要であります。

【学びの変革】

 こうした教育を実現するには、授業も教職員も大きく変わらなければなりません。そこで、7次計画においては、個別最適な学び、協働的な学び、探究的な学びに加え、AI時代に求められる新しい学びへの変革を中心に据えた「学びの変革」を推進することとしました。
 不確実で複雑な時代、AIが社会の在り方を変える時代においては、人間の強みである文章や情報を正確に読み解き対話する力、教科固有の見方・考え方を働かせて考え表現する力、対話や協働を通して新しい解や納得解を生み出す力、そして非認知能力を育成することがますます重要になります。
 そのために最も大切にするべきことはいうまでもなく授業であります。先に述べた資質・能力を育成する授業の創造は、教育のプロとしての教師が担うべき最も重要な使命であります。教科や総合的な探究の時間等の授業において、本県の教師がこれまで積み上げてきた豊かな実践の上に立ちながら、主体的・対話的で深い学び、個別最適な学び、協働的な学び、探究的な学びを実現することが求められます。それは、「多様な個性」をいかし、「対話と協働」を通して、「多様性を力に変える」教育へと教育の質的な転換を成し遂げるということでもあります。

【学校の在り方の変革】

 学びの変革を進めるためには、学校も変わらなければなりません。そのため、7次計画において「学校の在り方の変革」を進めていくこととしました。ここでも、今ほど述べた「多様性を力に変える」教育を重視するとともに、子どもを未熟な受け身の存在としてだけ見るのではなく、「子どもは一人一人が未来の創り手」、「全ての子どもは学びたがっているし学ぶ力を持っている」、「子どもは一人一人違っているし、違っていていい」という子ども観を根幹に据え、変革を進めていく必要があります。
 また、学びの変革を進める上で必要な条件として、学校を子どもにとっても教職員にとってもWell-beingが実現された場、環境にしていかなければなりません。いじめや暴力のない自由で安定的な人間関係を、友人や教職員と構築し、子どもが授業や学校生活に主体的に参画し、地域、NPOなど学校外とつながりながら、学校生活と学校外の生活のバランスがとれ、子どもも教職員も満足した学校が目指すべき姿であります。
 こうした観点から、一人一人の違いと自由が尊重され、個性と能力を伸長でき、能動的市民性、すなわちシティズンシップを身に付けていくことができるような学校、教職員が本来担うべき仕事に集中できる学校への変革を進めていかなければなりません。

【変革を実現するために】

 これらの変革を実現するために、県教育委員会としても、「福島ならでは」の教育を推進するための体制整備に努めてまいります。
 また、教育の質的転換は「全く新しい何か」ではありません。今までの学校教育の延長線上において、教員一人一人の日々の教育実践並びに研究と修養の中で生まれた新しい視点や発想によってこそ、達成可能なものであります。逆に言うと、教職員の意識を変えていかなければ、学びの変革も学校の在り方の変革も起きることはありません。

【おわりに】

 皆様におかれましては、ここでお話しました7次計画の目指すことや理念を繰り返しそしゃくし、本質をしっかりとつかみ、そこから照らして一つ一つの施策や改革の「意味」を考えてください。また、各教職員の個性をいかし、対話と協働を重視しながら、思い切った「変革」へ向けた具体的な取組を一つ一つ実現していっていただきますようお願いし、挨拶といたします。