ふくしま教育通信 2023年12月号 編集後記 「温かなまなざしを」 教育総務課長 堀家 健一
いよいよ2023年も残すところあとわずか。皆様にとって2023年はどのような年だったでしょうか。福島生活2年目の我が家はそれぞれ新しい趣味に挑戦をしたり県内各地に足を伸ばしたりと豊かな自然と温かな人間関係に恵まれて充実した1年を過ごしました。すっかり福島ぐらしに馴染んだのか出向元と電話をすると「すっかり福島の話し方になっていますね」と指摘されますが、どこが「福島の話し方」なのか自分では分からないほど。
先日、娘の学校の学年発表会がありました。アルファベットを身体で表現する体操や流行の歌に合わせたダンスなど、短い時間にたくさんのダンスや歌が。途中、音が鳴らなくなるアクシデントもありましたが、子どもたちはそれにも気がつかずに歌って踊り続けます。歌が上手な子も苦手な子も、踊りが得意な子も不得手な子も、みんな元気いっぱい身体全体を使って表現していて、こころの栄養をたくさん貰った時間になりました。
なぜ子どもたちの表現はあんなに生き生きしているんだろう。その1つに上手く見せるために縮こまっていないという点がある気がしました。大きくなってからの表現にはどうしても「評価」がつきまといがち。どうすれば上手に見えるのか、綺麗に見えるのか。その結果、洗練された美しい表現になりますが、子ども時代のほとばしるようなパワーは減じられてしまうのでしょうか。
12月2日に開催された双葉郡の児童生徒たちによる「ふるさと創造学サミット」でも印象的な場面がありました。このサミットは双葉郡の子どもたちが地域を題材とした探究的な学びの成果を報告し合うというもので、各学校の生徒会の子どもたちが主体となって運営していきます。最後の振り返りセッション、当日の感想を求められたとき。こういう場面では大人になるとなかなか手を挙げませんが、子どもたちは次々に挙手。とりわけ大熊町立学び舎ゆめの森の子どもたちは、次々と手を挙げて拙いながらも嬉しそうに感想を述べているのが印象的でした。
学び舎ゆめの森はこの4月に大熊町に戻ってきた認定こども園と義務教育学校が併設された教育機関。常磐道から見える学校施設も素晴らしいものですが、教育内容も非常に豊かです。ひとりひとりの「好き」を大事に、遊びと学びを上手く融合して、子どもたちが自らの学びをデザインしていけるようにと教育が行われています。今回のように大人数がいる場で臆することなく元気いっぱい自分の素朴な気持ちを表現できるのは、普段から温かな眼差しの中で見守られ、安心して表現を受け止めて貰う経験を積み重ねているからなのだなと感じたのです。
先日OECDが実施する生徒の学習到達度調査(PISA2022)の結果が公表されました。日本はOECD加盟国中、数学的リテラシーと科学的リテラシーが1位、読解力も2位。その要因として、新型コロナウイルス感染症のため休校した期間が他国に比べて短かったことや現行の学習指導要領を踏まえた授業改善が進んだこと、学校現場でのICT活用が進んだことでコンピューター使用型調査に抵抗なく取り組めたこと等が指摘されています。学校現場での先生方のたゆまぬ努力と創意工夫の成果であり、各種報道でも好意的に取り上げられています。
【PISA2022の結果(概要)】https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point.pdf
日本の学校教育は教科指導だけでない全人格的な教育実践を行う世界的にも評価の高い教育システムですが、学習塾と比較をするなど学校現場に対する不評の声も聞こえてきます。同じ話を聞いても、信頼できる人から聞くのと頼りない人から聞くのとでは説得力も違えば頭に入ってくる具合も違います。社会全体で学校教育を信頼し、温かな眼差しで見守っていくことも重要なのではと思うのです。
子育てをしていてもついつい目についた悪い癖を指摘しがち。どうしても大人目線で「評価」が入ったフィードバックをしてしまっているなと反省します。子どもたちが安心して力一杯に表現できるよう、学校現場で生き生きと豊かな学びが繰り広げられるよう、温かな眼差しで見守っていく。そうした在り方も大切だなと感じる経験でした。
今月も最後までお読みいただきありがとうございました。