ふくしま教育通信 2023年4月号 リレーエッセイ「クラス通信風に」 福島県教育委員会教育長 大沼 博文
20代のころ、先輩の先生がほぼ日刊で配っていた学級通信をまねて、自分も書き始めました。担任する生徒へ伝えたい思いに加えて、世の中の出来事や本・映画の紹介、時には自分や家族のことなど、思いつくままに綴っていました。学年主任を務めた時には、担任が交代で担当して学年通信を出そうと呼びかけ、週1ペースで配ったりもしました。デジタルで情報を伝えられる現在の状況からすれば隔世の感がありますが、手書きにはそれなりの良さがあったようにも思えます。
公式note「学びの情報プラットフォーム」が充実してきました。各学校からも新着記事が届いています。掲載された記事を読むたびに、これこそが福島の教育に関わる教職員、子どもたち、保護者、地域の皆さんへの現代版『通信』なんだと感じます。柔らかな文章で、写真やイラストも入れながら、多くの皆さんに気軽に読んでいただける内容で発信していきたい、と思っています。
ということで今回は昔を懐かしみ、クラス通信風に...。
演劇がもつ力
4月初めの週末。演劇鑑賞でエネルギーチャージができました。演目は三谷幸喜脚本・演出の『笑の大学』。十数年前、映画化された同作も観たけれど、やっぱり舞台の方が断然いい。最高に面白かった!
戦時下の言論統制が進む中、検閲官(内野聖陽)と劇団の座付き作家(瀬戸康史)が対峙する、反戦のメッセージが込められた喜劇。一つのセット、二人だけの役者で2時間ぶっ通しの熱演に、満員の客席からの拍手が鳴り止まず、スタンディングオベーションのフィナーレでした。
舞台を見るのが好きで、若い頃は劇場にも通っていました。そのせいなのか、演劇の経験や指導をしたことなどないのに、学校で文化祭があると、クラスの生徒に「演劇に挑戦しない?」と呼びかけたりしました。
脚本家のジェームス三木さんに生徒が手紙を書いて、ドラマ『翼をください』の台本を送っていただき、舞台向けに再構成して演じたこと。平和学習を兼ねて、朗読劇『この子たちの夏 1945・ヒロシマ ナガサキ』を発表したこと...。いずれも懐かしい思い出です。自己を表現する中で自信や肯定感が高まる。課題を乗り越えようと議論し、時にはぶつかりながらもより良いものを創ろうと協働する。舞台を作り上げる過程で、子どもたちは変容、成長していきました。
本県では、いわき総合高校が芸術・表現系列で演劇を学ぶ授業を行ってきました。また、ふたば未来学園でも、高1生全員が地域の課題を素材に対話劇を創作し、発表する取組を継続しています。創作の過程では、他者との対話が多様な価値観の理解につながり、思考力や自己表現力も育まれていきます。県教委ではこれらの成果を県内に普及するため、小中学校3校、高校3校をモデル校とし、演劇によるコミュニケーション力育成事業を進めているところです。
演劇は、海外では「生きる練習」と言われ、欧米を中心に学校の授業でも実践されています。子どもたちの主体的、対話的で深い学びにつながるものとして、演劇というツールはとても有効であるといえます。本県においても多くの学校で実践されるよう、指導者の育成も含めて取り組んでいきたいと考えています。
(執筆:福島県教育委員会教育長 大沼 博文)