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「松実」復興と地域創生に向けて         福島県立二本松実業高等学校(本校舎)

 令和5年4月、福島県立二本松工業高等学校と福島県立安達東高等学校の統合により、福島県立二本松実業高等学校が開校しました。工業科(機械システム科、情報システム科、都市システム科)と県内唯一の家庭科(生活文化科)を併設する専門高校です。「創造」「協調」「責任」の校訓のもと、高い専門性と社会性を身に付けるとともに、学科連携・地域連携による協働的・探究的な学びを通して、「地域産業の中核となる人財の育成」に努めています。
 統合校における「地域連携活動」や「学科横断による探究活動」の一コマをご紹介します。


1 地域連携活動

(1)JR福島駅新幹線アプローチ線工事を見学体験

 都市システム科の選択授業「土木構造設計」を学んでいる生徒たちが、社会基盤施設の工事に関する先端技術を学ぶために、現在建設が進められているJR福島駅新幹線アプローチ線工事を見学する機会を得ました。
 普段は立ち入ることができない高架橋、近接工事現場(新幹線などが実際に走っている近接の工事エリア)を実体験しました。

 JR東日本㈱の第一線の技術者から工事着工の背景、建設工法、施工管理の実務について、さらにはプロジェクトを進めていくにあたってのコミュニケーションスキルの大切さを、建設工事にまつわるエピソードも交えながら説明いただきました。

東北・山形新幹線上りの連結ホームを増設しています。着工中のアプローチ線について説明を受けています。新幹線網全体(東北・山形・北海道・北陸)の利便性の向上が期待されます。

 生徒たちは専門科目「土木構造設計」「測量」「社会基盤工学」との関連を確認するとともに、自分たちが「いま学んでいること」と「社会との繋がり」、人々の豊かな暮らしを確かに支えるインフラと土木技術の重要性、技術者たちの仕事に込めた熱い思いを肌で強く感じた貴重な体験となりました。

授業で学んだ内容と実際の工事現場の状況を確認中。

 形となり、後世へ残る。
 すべては人々の安寧な暮らしのために。
 土木技術者としての矜持(きょうじ)を魂に宿した「熱い」一日となりました。

未来の土木施工管理技士たち。あなたたちに期待します!

(2)風力発電設備に係るVR(Virtual Reality)を体験

 地球温暖化は産業革命を起点に進行し、その影響は年々大きくなっています。エネルギー源となっている石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料の使用に伴う地球温暖化の問題を解決するために、福島県では太陽光発電や風力発電設備の新規建設を進めるなど、再生可能エネルギーの利用を加速させています。

(公財)福島県産業振興センターエネルギー・エージェンシーふくしまの講師より、再生可能エネルギーの現状と風力発電設備の建設について講義の真っ最中。

 そこで、今回は㈱風凛のご支援のもと、情報システム科の生徒たちが風力発電設備に係るVR体験を行いました。
 風車の機構や保全管理の様子を、VRゴーグルを装着することにより仮想現実の中で疑似体験することができます。風車が建設される様子や風から電気を作る機械的な仕組みについて、まるで風車に上って目の前で見ているかのようなリアルな体験が可能となります。

手にしたVRコントローラで風車の上に立つ。

 福島県は2040年頃を目途に、県内のエネルギー需要量の100%相当以上を再生可能エネルギーによって生み出すことを目標としています。国と県が主導する「阿武隈風力発電事業」では、2025年までに108基の風車を阿武隈高地に建設する予定です。

 持続可能な未来社会を実現するためにいま何をなすべきなのか。
 学んでいる技術を社会のためにどのように役立てていけるのか。
 生徒たちにはぜひ、高校生活3年間の中で多くの物事を見聞し、感じて、体験して、その中から自分なりの考えを持って福島県の復興・創生を支える一翼となってくれることを願っています。

授業の振り返り。あなたは何を思い、考える?


2 学科横断による探究活動

(1)地域振興の取組を学ぶ

〈二本松の農場からエネルギーをつくる!〉二本松営農ソーラー見学
 二本松市には全国でも珍しい営農ソーラーパネルがあります。営農ソーラーとは、農業と太陽光発電を組み合わせた営農型発電(ソーラーシェアリング)のことです。
 二本松市塩沢地区の東京ドーム2個分(約6.3ヘクタール)の土地に、9500枚のソーラーパネルを設置し、その下でブドウやエゴマ、大豆、小麦、ニンジンなどを栽培しています。また、雑草対策として牛を飼っており、将来は本格的な放牧を行う計画もあります。
 ソーラーパネルは間隔をとって設置してあるので、作物が育つのには問題がありません。つまり、作物とパネルが太陽光をシェアしているのです。そして、売電で得た利益を経営に還元し、持続可能な農業経営を実現するという新しい発想に、生徒たちは興味津々でした。
 カーボンニュートラルの実現という大きな目標に向けて、本校の地元からこうした先進的で意欲的な取組が生まれていることを誇りに感じました。

ソーラーパネルの下の牛。様々な工夫を知り、感心した顔の生徒たち。

〈地産地消で地域創生〉道の駅「さくらの郷」訪問
 二本松市岩代地区にある道の駅「さくらの郷」は小さな里山にあります。今から21年前に、地域の女性6名が約20㎡のビニールハウスで直売所を始めました。それ以来、生産、商品開発、販売まですべて地元の人々で行う地産地消型の経営が続き、「さくらの郷」はコミュニティの重要な交流の場としての働きをも担ってきました。令和3年度には、「農林水産祭」むらづくり部門において、内閣総理大臣賞を受賞しています。現在、地元産のゴボウをふんだんに使用した「ごんぼコロッケ」、ブランドりんご「羽山りんご」、地元の食材たっぷりの「ピザ」、地域の人々がレシピを考えた「天然醸造さくら味噌」、そして耕作放棄地を利用した「そば」などが人気です。
 生徒たちは「さくらの郷」を訪れ、地域の方々へのインタビューをとおして地産地消・地域創生の在り方を学ぶことはもちろん、コロッケやソフトクリームを食べたりお土産を買ったりしていました。
※「ごんぼ」とは方言で「ごぼう」のこと。(二本松市HPより)

「さくらの郷」駅長代行の方に地域創生の在り方についてインタビューする。

(2)震災からの復興の現状を知る

〈処理土の行方と放射線〉飯館村長泥地区再生利用実証事業見学
 震災と原発事故から13年近くが経とうとしていますが、福島県内には今なお、帰還困難区域があります。除染は進み、避難指示が解除される地域も増えてきましたが、除染によって出た除去土壌の最終処分についてはまだ決定していません。私たち県民は、このような状況をきちんと理解しなければなりません。

 そこで、まず、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授の坪倉正治先生の「放射性物質について」の講義を聴きました。放射性物質とはどのようなものかを学び、放射性物質についての正しい理解が必要であることを知りました。

放射性物質についての最新の知見を学ぶ。

 そして翌週、生徒たちは飯館村長泥地区で行われている、除去土壌を処理した上で農業に再利用するという実証実験の現場を見学しました。現場では、広大な土地を4つの工区に分け、水田実験や露地栽培、ハウス栽培、農地造成などを行っています。

「花の町 飯舘(いいたて)」の復活を!現場に立てられたビニールハウスでの実証事業の説明。

 工区ごとの説明を受けた後、コミュニティセンターで振り返り会を行いました。「この実証実験にはどのような意味があるのか」「処理土再生利用の実証事業が全国で行われないのはなぜか」「除去土壌の最終処分はどうなるのか」などをグループごとに話し合いました。

 生徒たちは学科の垣根を越えて真剣に話し合い、個人でまとめた感想やグループで話し合った今後の課題についての発表も活発に行いました。
 最後に、環境省の方への質問や意見交換などにも積極的に取り組むなど、福島県の復興・再生について考える有意義な時間となりました。

左:自分の考えを発表する。 右:グループでの話し合いの様子。
振り返り会では、環境省への質問が相次いだ。

 二本松実業高等学校はこれからも地域とともに歩みながら、福島県の復興と創生を基盤から支え、力強く牽引していく人材の育成に努めていきます。

※ぜひ二本松実業高等学校のnoteサイトと学校HPもご覧ください!