「デイジー(DAISY)」をご存じですか? 福島県立図書館の読書バリアフリー推進への取り組みをご紹介します
はじめに
私たちは、普段当たり前のように紙でできた活字の本を読んでいます。しかし、様々な理由によりこうした本をそのままでは読めない、読みづらい方が多くいます。
最近では、『ハンチバック』で芥川賞を受賞された市川沙央さんが受賞会見で読書バリアフリー環境整備の遅れを訴えて話題になりました。
「日本の“読書バリアフリー環境”の遅れは目につきました」市川沙央氏が芥川賞受賞作で伝えたかった自身の“問題意識”新芥川賞作家 市川沙央氏インタビュー(文春オンライン)
※ホームページは、2023年8月18日時点でのものです。以下も同様です。
読書バリアフリーとは、「読み」に関する障がい等の有無にかかわらず、誰でも読書ができる状態のことです。福島県立図書館では、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)に基づき読書バリアフリーを推進するための様々な取り組みを行っています。今回は、そうした取り組みの中からデイジー(DAISY)を紹介します。併せて、学校現場での活用に役立つ資料をご紹介します。
デイジー(DAISY)をご存じですか?
デイジーは、「読み」に困難がある人達のためのアクセシブルな電子書籍の国際規格です。図書の内容を音声で読み上げた電子書籍となっています。ページや章ごとにデータが区切られており、活字図書のように章ごとに読む、特定の部分だけ読み返すこともできます。
デイジーでは文字の内容を音にして届けますので、視覚障がいや高齢などにより文字が見えない・発達障がいなどにより文字を脳内で音に変換することが難しい・肢体不自由などにより紙の本が持てないなど、紙の本を使った活字での読書が難しい方にも利用できます。
デイジー資料の種類
デイジーによる資料には、いくつかの種類があります。
録音デイジー
専門技術を持った人(音訳者)の声で録音されたものです。単に音になっているだけではなく章や見出しが設定されており、紙の本と同様に見出しを行き来することができるようになっています。また、オーディオブックとは異なり紙の本の内容をなるべく正確に音に変えています。テキストデイジー
テキストデータを読み上げるものです。機械音声で読むため独特のアクセントや読み間違いが発生しますが、音訳ほどの専門技術は不要なので、高速で多くの人が製作することができます。マルチメディアデイジー
通常の電子書籍と同様に画像が表示されますが、音声に合わせて文字がハイライトされることで、文字を脳内で音に変換することが難しい方などでも読みやすいようになっています。白黒反転や強調表示なども可能です。幅広い方が読みやすい資料ですが、製作にとても手間がかかるので教科書や子ども向けの本が中心となっており、コンテンツ数が限られています。
デイジー資料を利用できる方
多くのデイジー資料は、紙の本を特別な方法で複製したものです。そのため著作権法(第37条第3項)により、利用ができるのは以下のような理由で活字の本が読めない・読みにくい方に限られています。
視覚障がい・高齢などにより、文字が見えにくい・見えない方
発達障がいなどにより、文字が見えていても内容の理解ができない・難しい方
身体の障がいなどにより、紙の本を持って読むことが難しい方
障害者手帳が無くても、心身の障がい等により活字での読書が難しい方であれば利用することができます。福島県立図書館では障がい者サービスの利用登録時に状況をお尋ねし、利用できるかどうかを判断しています。
とりあえずマルチメディアデイジーを試してみたい!
デイジーは電子データなので、再生ソフトを導入したパソコンやスマートフォン等で再生するか、電子データをコピーしたCDを専用の機械で再生する方法があります。通常のCDプレイヤー等では再生できません。
「とりあえずマルチメディアデイジーを試してみたい!」なら、下記の誰でも自由に利用できるコンテンツをダウンロードしてみてください。再生ソフトが同梱されているものがあり、実行ファイル(.exeで終わるファイル)を実行するだけでマルチメディアデイジー資料を起動できるようになっています。
ノーマネット(日本障害者リハビリテーション協会)
一般的なデイジー資料をパソコンやスマートフォンで再生する場合には、再生ソフトを導入する必要があります。様々なものが配布・販売されていますが、無料で利用できるものとして、例えばChattyBooks(NPO法人サイエンス・アクセシビリティ・ネット、非商用利用に限る)などがあります。
再生用ソフトウェア(日本障害者リハビリテーション協会)
日本中のデイジー資料を活用する
福島県立図書館を通して、日本中で作られた資料が登録されている電子図書館「サピエ」を使い、10万タイトル以上の資料を自宅・学校から利用できます。
サピエ(全国視覚障害者情報提供施設協会)
『サピエ』には例えばこんな資料があります。
『ハリネズミと金貨:ロシアのお話 (世界のお話傑作選)』
ウラジーミル・オルロフ/原作,田中 潔/文,ヴァレンチン・オリシヴァング/絵、偕成社、2003年。マルチメディアデイジー(伊藤忠記念財団製作)
※東京書籍の小学校3年国語教科書(令和2年度版)に掲載された作品です。
『あと少し、もう少し』
瀬尾 まいこ/著、新潮社、2012年。音声デイジー(日本赤十字社北海道支部点字図書センター製作)
※光村図書の中学校1年国語教科書(令和3年度版)に掲載された作品です。
『図解ストレス解消大全 科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました』堀田 秀吾著/著、SBクリエイティブ、2020年。テキストデイジー(神戸市立点字図書館製作)
また、サピエには図書だけではなく雑誌も配信されています。『ジュニアエラ』(抜粋)や『音楽の友』など、様々なジャンルのものがあります。
利用には、当館またはサピエ加盟館等による登録が必要です。また、パソコン等の機器がなくても、当館から再生機と資料データの入ったCDを貸出することも可能です。詳細は下記の当館ホームページからご覧ください。
障がい者サービス(福島県立図書館ホームページ)
学校現場での利用
学校現場では、視覚障がい・ディスレクシアなどにより読みに困難のある生徒・児童に対してデイジーを活用した学習が行われています。また、小中学校向けのマルチメディアデイジー教科書も作成されています。
マルチメディアデイジー教科書は日本障害者リハビリテーション協会により作成されており、令和4年度には全国で約2万人が活用しています。本人・保護者・学校・教育委員会等の申請により利用することができます。詳細は下記をご覧ください。
マルチメディアデイジー教科書(日本障害者リハビリテーション協会)
学校等での活用事例については、「読書バリアフリーコンソーシアム」(文部科学省委託事業)に多くの情報がまとまっています。当館にも活用事例が掲載された資料があります。
学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム
学校や学校図書館での読書バリアフリー推進については、先進図書館で作成されている以下のような資料も役立ちます。
「バリアフリー読書のためのサポートガイド」(埼玉県立図書館作成)
「特別支援学校での読み聞かせ」(東京都立図書館作成)
「特別支援学校の学校図書館に関する図書一覧」・「特別支援学校の学校図書館に関する雑誌記事一覧」(岐阜県立図書館作成)
また、障がいのある子どもたちの学びに関する相談ができる機関として、福島県特別支援教育センターがあります。
福島県特別支援教育センター
おわりに
福島県立図書館では、学校での読書バリアフリーに関することや、学校図書館のことについて相談を受付しています。相談したいことがございましたらお気軽に下記問い合わせ先へご連絡ください。
(福島県立図書館)
(https://www.library.fcs.ed.jp)